日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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資源活用システムからみた山村の生活維持構造
日本の奥多摩とポーランドのカルパチア地域の事例から
*中台 由佳里
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p. 251

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抄録

1. 研究目的 森林を生活の場とする山地の住民はどのような生活維持構造を持っているのか。どのような要因によってその生活維持構造が形成されているのかを解明することが本論の目的である。研究事例として、日本の奥多摩とポーランドのカルパチア地域を取り上げる。2.山地の生活維持構造1) 日本の奥多摩、日原の事例 日原は東京の西端にあり、大正期まで焼畑を利用し複合的な生業によって自給自足的な生活を維持させていた。近世に幕府直轄林があり、その後は東京都の水源林として管理されてきた経緯により、山の天然資源を享受することができた。他地域より移住してきたと言われる住民は血縁による結びつきが強く、保勝会を組織し日原鍾乳洞を中心とした観光に関連した地域内の現金収入となる仕事を分け合うシステムを作った。 生業と地域の文化とは相互に影響し合いながら成立し,この生業と文化との関わりを基盤として住民の空間認識が形成された。「ブラク」「ミノト」「サワ」「ウエノヤマ」「ムコウヤマ」という土地分類呼称に表れる住民の空間認識を形成したのは、複合化された生業と年中行事や自然崇拝などの地域文化との関係であった。2)ポーランドのカルパチア地域、バランツォーバの事例 狭小な農牧地と冷涼な気候により、カルパチア地域のバランツォーバでは現在でもほぼ自給自足的な生活が継続している。1989年以降急速な経済変化が起こっているが、経済の中心から離れた山地地域はなかなか経済発展の恩恵に与れない。そのため住民の生活は,厳しく不確定な自然条件の元で森林におけるエコ・システムを充分に理解しなければならない。また、利用法を民俗知識として蓄積し,主たる生業に加えて林産物(樹木、木の実、キノコ、ハーブティーなど)を利用することにより生業を複合化することで生活を維持している。 しかし近年では、国内外への出稼ぎが日常化し、生活必需品が直接持ち込まれたり、現金がもたらされたりはしているが、集落内には店舗がなく金銭の流通は見られない。その代わり、拡大家族関係を中心に馬の労働力や人力による労働力を相互扶助しあい、農牧業を支え生活を維持している。3.生活維持構造の正四面体モデル 以上の二つの事例から、生活維持構造の要因を解明してみる。山地住民の生活維持構造をその要因に着目してみると、天然資源、家族形態、文化、経済の4つの要因が見出せる。そして、この4つの要因を頂点とする生活維持構造は正四面体としてモデル化することができる(図1)。つまり、自然環境に基づく天然資源を土台として利用し、家族形態を通して労働力を相互扶助し、山地特有の厳しい自然環境に対しては生業を複合化し、地域独特の自然神崇拝を生み出す伝統的な文化を維持していく、という山地の生活を正四面体のモデルとして提示することが可能である。 この正四面体の重心に紐を通すと仮定するならば、この4つの要因は互いに影響し合っているため、辺の長さと頂点の重さが等しい場合正四面体はバランスを保ち、不均等であれば四面体はバランスを崩す。つまり、正四面体の理論によって山村の未来を予測することが可能になる。 今後の研究課題として、正四面体の理論を農村や漁村に拡大できるかどうか事例研究により研修する必要があると考える。

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