日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

カンボジア領内メコンデルタの洪水モニタリング
*伊藤 健春山 成子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 30

詳細
抄録

1.はじめに
 メコンデルタではモンスーンの影響を受け,雨季にメコン川の溢流氾濫で洪水は長期にわたる.このため,洪水氾濫は農業基盤としての水資源でもある.しかし,近年,土地利用高度化のなかで農業被害,都市災害の側面,さらに幼年者の洪水時の死亡などが増加しているところから洪水共生型に準拠しながらも防災に目を向ける必要がある.
 メコン川の洪水はクラチエ地点から氾濫が開始しているがカンボジア領内で洪水については氾濫経路,溢流地点,ピーク後の減水経過などの洪水動態が不明であった.このため,時系列的な洪水湛水域の把握も不十分である.防災計画にはカンボジア領内メコンデルタにおいて洪水緩和・軽減に向けた地域分析が必要である.そこで,本研究では広域な地表面情報を捉えるリモートセンシングデータを用いてカンボジア領内メコンデルタにおいて洪水モニタリングを行った.
2.手法
 熱帯地域における洪水の動態を把握するためにマイクロ波リモートセンシング(合成開口レーダ:SAR)が有効な手段である.本研究ではJERS-1SARデータを使用した.
2.1.使用したJERS-1 SARデータ
 表参照
2.2.SARデータの前処理
 SARデータをGIS(TNT/mips:Microimage社)上で10万分の1地形図を用いジオリファレンス,フィルタ処理などの画像前処理を行った.その後SARデータのピクセル値を(1)式を用いて規格化後方散乱断面積(NRCS:Normalized Radar Cross Section)に変換.
NRCS=20log10I+CF[dB]  (1)
I:SAR標準処理成果物(レベル2.1:Amplitude表現)に含まれるピクセルのDN(Digital Number)
CF:Calibration Factor(-85.34)
2.3.湛水域の抽出
 湛水域の抽出にはマイクロ波の水面における鏡面反射の原理を基に,NRCSの変化を捉える志田(2004)の手法を用いた. [湛水後_-_湛水前]のNRCS変化量を計算し,変化量が閾値を越えた場合を湛水と判別した.志田(2004)での閾値は-1.8(dB)であったが,本研究で-1.8(dB)を適用したところ河川である場所を湛水と認識している場所があるため新たに閾値を決定することにした.
 本研究ではテストエリアとしてカルトルブラ地区周辺を設け,季節変化が明瞭な6月,9月のNRCSの差のヒストグラムを読み取り,-3.2(dB)付近を境に二つの分布が見られるために,NRCS特性からNRCSの値が小さいものは[非湛水→湛水],NRCSの値が大きいものは[湛水→湛水]と解釈した.そこで,この-3.2(dB)を閾値として設定し,8月,9月,12月の湛水域を抽出してみた.
3.結果
 閾値を-1.8(dB)から,-3.2(dB)に変化させることで地形要素としての山地や河川が湛水域判別の際の誤判別を減少させることができた.また,2005年雨期のグランドトゥルースによって歴史的洪水と平均場を比較することができた.この結果を用いて湛水域の範囲について評価を与えた.
 画像から得た時系列の湛水域変化を見ると,湛水面積は9月において最大となった.乾季の12月の時点では雨季の8月よりも多くの面積が湛水していることがわかった.
 8月の時点では自然堤防などの微高地では湛水に至っておらず,後背湿地において徐々に湛水し始めている状態である.9月においては道路や自然堤防,完新世段丘を残して多くの地域で湛水している.特にメコン川とトンレサップ川に挟まれた地域,メコン川とバサック川に挟まれた中州に当たる地域での湛水域の拡大が認められる.乾期の12月においては氾濫原の一部では水面が残っているものの離水した個所が多い.しかし,カンボジア,ベトナムの国境付近では未だ湛水している場所が多く見られることがわかった.

  Fullsize Image
著者関連情報
© 2006 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top