日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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インドネシア国バンダアチェ海岸平野における土地条件と津波の流動
*海津 正倫
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p. 47

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抄録

はじめに 2004年12月26日に発生したインド洋大津波に関して,陸上における津波の挙動と土地条件との関係を,甚大な津波の被害が発生インドネシア国バンダアチェ平野において検討した.現地の地形把握にあたっては,高精度衛星画像,5万分の1地形図およびSRTM-DEMデータを用いた.また,津波の高さに関しては,建物等に残された津波痕や,津波による建物の破壊部分と非破壊部分との境界などを周囲と比較しながら認定し,津波の高さを測定した.さらに,破壊された建物の柱の倒れた方向,床に残された擦痕に基づいて津波の流動方向を把握した.調査地域概観 バンダアチェ平野は,スマトラ断層の活動によって形成された地溝帯に発達した,海岸部の幅が約20 kmにおよぶ楔形の平面形をなす平野である.平野の内陸側西部にはより古い地形面と考えられるわずかに高い土地が広がり,中央を蛇行しながら流れるアチェ川の下流部には断片的に残存する旧河道沿いなどに自然堤防が発達する沖積低地が広がる. 海岸域の西部および中央部には1〜1.5 kmの幅で干潟の発達する潮汐平野が認められ,アチェ川の作る沖積平野がこれに連続している.これに対して,平野東部の海岸地域には幅100〜200 m程度の浜堤列が数列発達していて,現在の海岸線付近には小規模な砂丘も認められる.津波の流動方向と高さ バンダアチェ平野における津波の進入はほぼ北西から南東の方向を示しており,東部では海岸線に沿って発達する砂丘や浜堤の切れ目の部分から内陸に向けて掌状に進入した流れも見られる.また,平野の西部では,アチェ西海岸から到来した津波の流れとぶつかる状態や,南側の山地に遮られる形で東に向きを変えている津波の流れも認められる. バンダアチェ平野における海岸付近の津波高はおよそ10 m前後と考えられるが,平野の西北部では海岸から2 km付近の地点においても地表から7〜8 mの高さにまで達しているところがあり,内陸側への進入距離も東部に比べてやや長くなっている.さらに,海岸線からの距離がほぼ同じ場所を比較すると,中央部および西部の津波高が東部のそれに比べてかなり高くなっていることも明らかである.なお,バンダアチェ平野における引き波の痕跡は余り明瞭ではなく,タイにで行った調査のような引き波の流れを復原するには至らなかった.また,海岸部における小河川の河口部では,著しい侵食は認められなかった.津波の進入に関わる土地条件 バンダアチェ平野では中・西部の海岸域が三角州および潮汐平野の性格を持っており,地盤高は相対的に低い.このため,バンダアチェ平野中央部および西部では,津波に対してはきわめて脆弱で近年エビなどの養殖池として利用されていた潮汐平野の部分が容易に破壊されてしまい,津波が減衰しないまま内陸部にまで到達したと考えられる.また,平野の東半部でも干潟の面積が比較的広い部分では西半部と同様に内陸部まで津波の被害が及んだが,東部では東西に延びる砂丘や砂堤列の存在によって地表の起伏が津波の進入を阻害される傾向がみられ,中央部および西部に比べて津波の到達距離が短くなり,内陸に向かっての津波高さの減衰が顕著になったと考えられる.なお,河川沿いでは津波の遡上距離が長く,津波が河川に沿って進入しやすいと言うことが確認された.結論  バンダアチェ平野では低地地形の地域的な違いが津波の遡上に顕著な影響を及ぼした.海岸付近における微地形の違いは砂丘の存在を除いて津波の進入にほとんど影響しなかったが,到達限界付近では津波の遡上を妨げた.さらに,東部では砂丘・浜堤列の存在によって津波の遡上が抑制されたため,西部に比べて津波の到達距離,津波高が相対的に小さな値となった.これに対して,アチェ低地中・西部では低平な沖積平野がそのまま干潟に連続しているため,津波はより内陸にまで達し,潮汐平野に作られたエビ養殖池の広がる干潟部分は面的に侵食された.

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