日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
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モルディブ共和国におけるインド洋大津波の被災状況とサンゴ礁
洲島系の地形効果
*菅 浩伸アリ モハメドリヤス マホムド
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p. 91

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抄録
1.はじめに モルディブ共和国では,2004年12月26日のインド洋大津波によって200の有人島のうち39で甚大な被害を被り,死者82名,行方不明者26名の人的被害,3,997戸以上の家屋・建物被害が発生した。この津波災害によって避難を余儀なくされた住民は12,478名(2005年1月5日時点)である。モルディブにて潮位計に記録された最高潮位は,北部のHanimaadhooで平均海面上182.6cm, Hulhue-Maleで142.0cm, 南端のGanで79.5cmと北ほど高い。しかし,死者・不明者の多くは南マーレ環礁以南の環礁東側の洲島で発生するなど,被害は南部ほど大きく,潮位計記録との間に齟齬が認められる。 我々は2005年2月, 3月, 8月にモルディブ諸島北部から南部にかけての43島で調査を行った。調査では集落を通る島の断面測量によって洲島の地形を把握するとともに,建造物などに記録された津波の遡上高を計測し,被害状況についての聞き取りを行った。2.津波遡上高と被災状況1) 北部 北部環礁(Haa Alifu, Haa Dhaalu)では,被害を受けた島と被害がなかった島が混在する。同環礁における被害の多くは礁湖側から押し寄せた水塊による浸水であった。環礁の縁に間隙のある同環礁では,東から押し寄せた津波が礁湖内に進入した。また,洲島は外洋側にビーチリッジ(高度:平均海面上2_から_3m)をもつ。これらが津波第一波による被害を軽減させたと考えられる。建造物に残された海水の遡上高は平均海面上1.8m程度で,潮位計の記録と一致する。集落の立地高度は島によって異なり,わずかな高度の違いが浸水被害を被ったか免れたかの境目となった。2) 中部 中部に位置する南北マーレ環礁(Kaafu)東側の洲島は,高度平均海面上1m程度で規模が小さく,ビーチリッジの発達もみられない。ここでは東側からの第一波につづいて,15_から_30分後に西側の礁湖から押し寄せた水塊に洗われた。一部の洲島東側で建造物の壊滅的被害が,西側でも建造物の破壊などがみられた。建造物に残された痕跡から津波の最大遡上高は平均海面上2.5mに達した。3) 南部 南部環礁群の洲島はビーチリッジをもたず,高度は平均海面上1m程度と低い。この地域では東列の環礁(Meemu, Thaa, Laamu)の,特に東側の島々で被害が甚大であった。これらの洲島では東側で建造物の壊滅的被害がみられ,遡上高は最大3.6mに達した。一方,礁湖側・環礁西側での被害は小さい。津波は東からの第一波のみで,礁湖からの海水の押し寄せはみられなかった。3.環礁・洲島の地形と津波の挙動 モルディブのサンゴ礁地形は,北部では多数のファロ(faro: 小環礁)によって環礁の縁が構成されており,南部では縁が連続した環礁となる。また,洲島の高度は北部で高く,ビーチリッジの発達がみられる。洲島地形の南北での違いはストームの頻度と関係があると考えられている。 北部では不連続な環礁の水路から津波が礁湖内に進入することによって,環礁東側の島での被害が軽減したものと考えられる。これらの島では東側に発達するビーチリッジも防波堤の役割を果たした。 一方,南部の連続性の良い環礁の東縁に位置する洲島では津波の遡上高が高く,東岸に沿った地域で破壊的な被害を被った。ただし,環礁西側や礁湖内での被害は少なく,環礁東縁がその上に載った洲島ともども防波堤の役割を果たしたと考えられる。
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