日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S204
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日本におけるマリーナの展開と沿岸観光地の今後の課題
*佐藤 大祐
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抄録

1.はじめに
 本発表はマリーナに関するこれまでの研究成果を踏まえ,マリーナを含めた沿岸観光地における近年の動向と課題を探るものである。
2.マリーナの展開過程
 東京大都市圏におけるマリーナを,3つの指標(保管艇の種類と規模,施設構成)を基準に分類すると,外洋型,内湾型,湖沼型という3地域類型が抽出される。外国人居留地からの系譜を引く外洋型マリーナは,三浦半島の相模湾側を中心に1960年代の高度経済成長期に集中的に成立したものである。また,内湾型マリーナは1973年のオイルショック以降,造船不況や円高不況によって臨海工業地帯の工業が空洞化した時期に,造船所を中心とする工場施設から転用されて成立したものである。さらに,霞ヶ浦・北浦と河口湖・山中湖に展開する湖沼型マリーナは,水質汚濁などの湖の環境変化に伴う漁業不振や魚種変化に対応して,1990年代に成立した。
 外洋型マリーナは保管艇の多くをヨットが占め,保管艇数は300隻台と大規模であり,ホテルやマンション,プールなどの付随施設を備えている。その利用者は東京都区部西部の高級住宅地に居住する大企業経営者などの高額所得者層からなり,夏季に別荘やリゾートマンションに滞在して,沖合海域で大型のヨット・モーターボートを使ったセーリングやトローリング楽しんでいる。内湾型マリーナは保管艇の主体がモーターボートであり,100隻未満の収容規模で,ボートの上下架施設や整備工場,給油・給水施設等の基本施設のみを備えている。その利用者は東京都区部の東部に居住する小規模企業の経営者や会社員,公務員などの中産階級からなり,小型モーターボートを使って東京湾内の沿岸水域において釣りを楽しむ日帰り客が多い。一方,湖沼型マリーナは保管艇の大多数をブラックバスフィッシングボートが占め,小規模で保管施設のみの簡素な施設構成である。その利用者は,東京都区部と市部および都県境界付近に集住する20~30歳代の会社員から構成されている。そして,かつて伝統漁業が操業されていた湖岸において,ブラックバスフィッシングを楽しむ日帰り客が多い。このように,利用者の社会階層の拡大と,高度経済成長や産業構造転換などの社会的背景の変化に対応して,マリーナは外洋から内湾,湖沼へ立地展開してきたと言える。
3.近年の動向と今後の課題
 近年,西伊豆の安良里集落のように漁業協同組合が漁港の一角を利用してマリーナを経営するところも見られるようになった。また,マリーナは都市部を中心にいまだウォーターフロント再開発の有効な手段である。一方で,小さなマリーナは廃業するところも見うけられる。今後も転用や開発,淘汰を繰り返しながら,日本の沿岸域は徐々に観光レクリエーション利用の割合が増加していくものと考えられる。
 一方,アメリカ合衆国の東海岸とメキシコ湾岸においては,長く伸びる沿岸州を利用したイントラコースタル水路沿いにマリーナなどが開発され,その中でも避寒地のフロリダ半島では桟橋付き別荘とともにプレジャーボートが定着している。桟橋付き宅地開発は日本でも近年,芦屋や虫明(牛窓近く),蒲郡などで行われている。このような富裕層向け開発は,今後も建設コストの低い内海で行われることが予想される。また,五大湖沿岸では,自宅の庭先にトレーラーボートが保管され,無数にある氷河湖で用いられており,全米で最もプレジャーボート普及率が高い地域となっている。このような安価なボートと利用スタイルは日本でも若年層や退職者に広がる可能性を秘めている。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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