抄録
1.はじめに
GISの地理教育へ導入に関しては数多くの議論がなされており、地理教育へ大きな効果をもたらすとされている(村山 2003;伊藤2004)。これにともない地理教育へのGISの導入に関する研究の蓄積も進んでいる(伊藤 2006)。しかし、実際にGISが導入された地理の学習における評価に関する研究はほとんどなされていない。筆者は1997年から高等学校の地理の学習においてGISを積極的に取り入れてきた(小林 2003)。そこで、GISを地理学習へ導入した際の評価に関する研究について報告を行う。
2.分析の対象となる授業
分析の対象は2000年4月~2001年3月に千葉県立小金高等学校第一学年生徒158名について行った地理Bの授業である。地理Bは4単位が標準であるが、小金高校では3単位に減単位されている。年間の授業は表1のように展開した。殆どの生徒が大学進学を目指しているため、授業では地理Bの内容を出来る限り網羅するようなものとし、定期考査(年間5回)の問題は大学入試センター試験を念頭においた形式・内容になるようにした。表中の太字は筆者が開発した表計算ソフトウエアによるGIS的学習教材を利用したもの、斜字は地図作成以外に表計算ソフトを利用したものでありいずれもコンピュータ教室にて実施した。年間授業時間のおよそ30%をコンピュータ教室にて実施したことになる。
3.GIS的学習教材の作成状況と定期考査の得点との関係
図1は受講生徒158名のGIS的学習教材の作成状況(表1の太字の学習における課題達成状況を数値化)と定期考査の得点(年間5回500点満点)との関係を表す。これらの変数間の相関係数は0.324となりこれを標準誤差で割った値を検定すると1%水準で有為であるので正の相関が認められる。このことからGIS的教材の作成状況は定期考査の得点に影響すると考えることができる。
定期考査の平均得点(306.32点)とGIS的教材の作成状況の平均得点(36.09点)にて図1の座標平面を第 I 象限~第 IV 象限に分割する。ここで注目すべきは第 IV 象限の部分である。この部分における学習者はGIS的教材に対してよい反応をしているが定期考査の得点は平均以下である。彼らの能力をいかに評価するがが地理教育へのGISの導入において重要である。年間の授業の終わり行ったアンケートから学習者の授業に対する印象についての回答を得た。図1の○はこの授業全体に対して好印象を持っている学習者(上位25%)である。これに対して、×はあまり良い印象を持っていない学習者(下位25%)である。第 IV 象限の学習者には好印象を持っている者がほとんどなく、良い印象を持っていない学習者が目立つ。逆に第 II 象限の学習者のようにGIS的教材に対してあまり反応を示していなくても定期考査の得点がよければ授業全体に良い印象を持つ。
4.おわりに
GISが地理教育の中でより一層広まるためには第 IV 象限の学習者を少しでも多く第 I 象限へ送り込めるような方策が重要である。その一つの方策として、GIS的教材に対しての高い能力を示していることを評価できるように定期考査のようなペーパーテストの問題の工夫が考えられる。第 IV 象限の学習者は従来はなかなか地理では評価されない者であった。定期考査にとどまらず大学入試でのペーパーテストでもこうした能力を評価できるような問題の工夫がなされれば、彼らは地理に対してより一層興味や関心を示すに違いない。彼らの興味・関心を地理教育が取り込むことによって、地理教育の裾野も広がる。これによってGISは地理教育においてさらに大きな効果をもたらすこととなろう。
【文献】
伊藤悟 2004.教育現場におけるGIS 活用の課題と方策.日本地理学会2004 年秋季大会シンポジウム「教育現場におけるGIS 利用の課題と方策」発表資料
伊藤悟 2006.小中高の授業でGISをどう使うか.日本地理学会2006 年春季大会シンポジウム「小中高の授業でGISをどう使うか」発表資料
小林岳人 2003.地理教育における表計算ソフトを利用したGIS 的学習教材の開発と実践.地理情報システム学会講演論文集12:189-192.(開発したGIS的学習教材の詳細は以下のサイトを参照http://homepage2.nifty.com/taketo-kobayashi/)
村山祐司 2003.学校教育におけるGIS 利用の可能性を探る.日本地理学会2003 年春季大会シンポジウム「学校教育におけるGIS 利用の可能性を探る」発表資料
