日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 722
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ナミビア・クイセブ川中流域における堆積物粗粒化と森林衰退
*山縣 耕太郎水野 一晴
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抄録

 クイセブ川は,ナミブ砂漠を横切る主要な河川の一つで,十分に降水があった時にのみ流水が生じる一時河川である.この河川によって南方から移動してくる砂丘砂が下流へ運搬されるため,クイセブ川の南側は砂砂漠,北側は岩石砂漠となっている.このクイセブ川沿いに発達する森林において部分的に樹木の大量枯死が生じていることが確認された(水野,2006).こうした森林の衰退は,流域に生活するトップナールの人達にとっても深刻な問題である.
 河畔林の盛衰は,河川の水文環境に大きく影響されるものと考えられる.また,河川水文環境の変化は,流域における自然的,人為的な原因による環境変化に対応して変化する.さらに,その変化は,河畔植生ばかりでなく,河川の浸食,運搬,堆積作用に影響をおよぼし,堆積物の粒度に変化を生じる.したがって,流域に分布する河成堆積物は,流域に生じた環境変化を記録する媒体として有用であると考えられる.本研究では,クイセブ川中流域の河川氾濫原堆積物の検討から,近年の河川環境の変化を明らかにし,森林衰退の原因を検討することを目的とした.
 クイセブ川中流域のゴバベブ付近において,河道沿いの浸食崖や,氾濫原上で作成したピット断面において堆積物を観察した.ゴバベブは,峡谷の出口付近に位置し,水文条件の変化に対応して浸食・堆積状態の変化が起きやすい条件にある.
 堆積物断面の観察から,多くの地点において地表下約1mの層準から上位に向かって堆積物が粗粒化していることが確認された.これより下位のシルト質砂層の堆積構造は,無層理あるいは平行層理であるのに対して,上部では顕著な斜行葉理が発達する部分が見られる.粗粒化が始まった時期を明らかにするために,シルト質砂層と粗粒砂層との境界付近から採取した木片について放射性炭素年代測定を行った結果,1960~1970年代という結果を得た.また,粗粒部分の下部からビニール袋が見出され,最近設置された構造物が堆積物に埋没していることからも,粗粒化や急激な堆積が生じたのは最近のことと推察される.
 堆積物の粗粒化の原因としては,洪水流量の増大と,粗粒物質の供給増加が考えられる.クイセブ川の場合,上流域に水源ダムが増加しており,ゴバベブにおける観測データからも,1976年以降,洪水頻度および洪水強度が減少していることが明らかである.したがって,粗粒物質の供給増加が,粗粒化の原因と考えられる.粗粒物質の供給源については,堆積物の特徴や,鉱物組成から,砂丘砂が供給源と推定された.洪水頻度が減少したため,河床への砂丘の移動が進行し,このため,洪水流への粗粒物質供給が相対的に増大したものと考えられる.さらに,洪水流量も低下しているため,かつては下流へ運搬されていた物質が中流域に堆積したものと考えられる.
 森林の枯死は,河床に砂丘が張り出している地点の下流側など,粗粒物質の顕著な堆積が見られるところで起こっている.おそらく,地表付近が粗粒化することによって,根系が発達する層準に水が保持されず,極めて乾燥したために,樹木の枯死が起こったものと考えられる.土壌断面の観察からも,シルト質の部分が,砂質な部分に比べて,水分含量が高いことが確かめられた.
 下流域ではこのような顕著な堆積現象,堆積物の粗粒化は生じていないようである.ただし,山縣ほか(2004)は,空中写真や衛星画像の解析から,クイセブ川下流部の氾濫原において,近年砂丘が発達していることを報告している.こうした現象も粗粒物質の供給が増大している影響である可能性がある.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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