日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P834
会議情報

ペルー、ナスカ台地の1500年間の微地形変化
*阿子島 功
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 ペルー、ナスカ台地とその周辺の地上絵は、ナスカ文化期(B.C.1C~A.D.8C)に台地礫層の表層の風化部分(沙漠ワニスと呼ばれる暗褐色部分)を深さ数10cm程除去して描かれたもので、線・帯・さまざまの図形・動植物の図像(抽象化された一筆書き)よりなり、規模の大きさ・数の多さ・図形の面白さなどから1994年に世界遺産に指定された。さまざまの図形・動植物の図像は、ナスカ期の土器に描かれた文様と一致している。
 ナスカ地上絵の考古学調査において、人工衛星Quick Bird画像によって地上絵分布図を作成すること、同画像の画像処理によって地形分類図を作成する手法の開発などについて先に述べた(1:阿子島2005.3日本地理学会)。
 さらに、地形分類図によって表現される土地条件が地上絵の作成当時にどの程度考慮された・あるいは・無視されたのかに関して、地上絵の配置と平坦面のひろがり・起伏、地上絵と地表面の安定度・不安定度(台地表面の色の違いでもある)との関係を述べた。これらの要素は、微地形分類によって表現できる。また微地形と地上絵の損傷程度との関係などについて検討してきた(2:阿子島2006.5東北地理学会)。
 今回は、地上絵の損傷(保存)程度をもって、約1,500年間の台地上面の地形変化程度を論ずる。台地上面は乾燥のためほとんど植被がないから、微地形分類図によって一様な評価ができよう。台地上面の地形変化を論ずることは、すなわち、地上絵の保存計画において、将来の地上絵の損傷の見積りなどを述べることでもある。
 現在の地表面に働いている地形変化作用は、日常的な砂嵐と10年に1回程度のエル・ニーニョの際の短期間の降水による表流水の影響である。1998年降雨が顕著な泥流を発生させた。
【方法】
 Quick Bird画像の判読は、最小分解能が0.7m程度とされ、広い範囲の一様な精度の分布図作成に適している(現在作業中)。また地上絵集中地区にはペルー軍撮影の垂直空中写真がある。しかし、いずれも地上絵個別の損傷などの検討には適していない。さらに世界遺産指定範囲の立ち入りは制限されていて、管理者の許可のもとに旧来道路沿いの観察のみ実現できた。よって専ら軽飛行機による選択的な空撮と既存の報告書にある数多くの斜め写真を利用した。
【判読上の留意点】
 特徴的な図像の地上絵はマリア・ライヘなどが測量記録する際に箒で清掃して強調しているが、本来の状態は周辺の単純な線などと同じ色調であったのであろう。線の新旧は平面的な切りあい関係、ときには縁に礫を寄せていることで判断できる。自動車の轍が最も新しい線である。台地上面の起伏は数10cm規模のごく浅い表流水跡(QB画像では不明瞭または判読できない:規模1)~深さ数m規模の河流跡(QB画像で判読図化できる:規模2)がある。後者への肩部分にも直線や帯が描かれていることもあり、地上絵が描かれた当時から河道の起伏はあった。ひきつづき更新されている河道部分が明るく写っている。
【判読例】
 規模1の流水跡:台地北東部(サンホセ平原)のいわゆる集中地区のオウム(PapagayoあるいはLibelura)の翼を切る浅い流水跡。 同じく観察塔直下の木Arbolと手Monasの間に深さ数10cm規模の表流跡(原型は帯の絵?)があり、木の右枝の先に側刻崖がせまっているが平面形はかろうじて損なわれていない。いずれの水流跡の集水域は台地上面の中である。
 規模2の流水跡:台地南東部(ソコス平原)の台形や帯(図1)は地表面安定度区分A・Bの部分に描かれている。地上絵は切りあい関係から1→2→3または4の新しさとなるが、河道Cは地上絵1と4の作成当時からすでにあり、現在まで更新を繰り返している。この河道の集水域は背後丘陵を含んでやや広い。
【結論】
 地上絵のうち長い線や帯は河道によって切られている部分があるが、図像などは安定型の地表面が選択されていることもあってごく浅い表流水跡に切られるのみである。将来1,500年間を経ても、その深さが2倍になるか、流路密度が2倍になるかのいずれかであり、おそらく流路は固定的で深さが増すことになり、自然的な原因による地上絵の損傷は問題とならないであろう。むしろ、地上絵発見後の約70年間における人為的な改変である自動車の轍による直接の深刻な損傷や道路などの工作物による泥流のせき止めなどが問題である。
Fullsize Image
著者関連情報
© 2007 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top