日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P839
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湖陸風が彦根市の気温環境に与える影響
池田 悠長谷川(石黒) 直子*倉茂 好匡伏見 碩二
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キーワード: 気候, 湖陸風, 気温, 土地利用
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抄録


1. はじめに
 湖陸風とは,湖面と陸地表面の温度差を原動力として吹く局地風のことである.そして琵琶湖沿岸域では,一般風の弱い晴天日には湖陸風が卓越することが知られている.湖陸風卓越日の琵琶湖東岸では,時計回りに風向が日変化することが知られている(枝川・中島 1981).また沿岸地域にある所では,湖陸風が気温形成に大きく影響する.
 彦根市は,彦根城を中心に市街地,郊外には田園地帯が広がっており,両者の間で熱環境は大きく異なっている.その結果,市街地では高温域,郊外では低温域を形成している(寺島 2002).
 そこで本研究では,熱環境の異なる市街地と農地に観測地点を設定し,湖風が両地域の気温形成にどのような影響を与えているのか観測に基づいて考察した.

2.観測地域・観測方法
 滋賀県中央には県面積の6分の1を占める琵琶湖が存在し,北東部には伊吹山,東部には鈴鹿山系,湖西には比良山系や比叡山が囲むので,盆地地形が形成されている.調査地は,琵琶湖東岸に位置する滋賀県彦根市内の16地点で,観測地点は湖岸線から内陸に向かって垂直になるように市街地(8地点)と農地(8地点)に2測線を取った.
 観測は,2006年7月~10月の晴天で湖岸付近と内陸(湖岸から約5km)に風が吹送する日に行った.6:00,10:00,14:00,18:00,22:00を代表時間とし,それぞれ前後1時間以内に移動観測を行った.観測項目は,風向・風速(大田計器製作所風向計・3杯式風速計),地表面温度(タスコジャパン株式会社放射温度計),気温(佐藤計量器製作所サーミスタ温度計),気温・湿度(吉野計器製作所アスマン乾湿温度計)である.移動観測による気温の時間補正は田宮(1979)に従った.定点の気温値には,彦根気象台の気温値を用いた.

3.結果・考察
 湖風が卓越したのは,全50回の観測のうち13回であった.湖風卓越時,各地点の風向は,ほとんどが北~西であった.
 図1は,湖風が卓越する時間帯の農地の測線における湖岸から内陸に向けての気温変化を示す.この結果によると,湖岸から内陸に向かうに従い,湖岸での気温と内陸での気温差が大きくなり6 kmの地点で2.5℃以上気温差が生じている.
 いっぽう,北の市街地沿いの観測線では,湖岸から内陸に向かって0.5 km付近までに3.0℃程度昇温していた(図2).それより内陸部3.5 kmまでは気温の上昇はほとんどなく,ほぼ横ばいとなっていた.
 一般風が卓越している日は,湖岸から内陸にかけて気温分布が一様になる傾向がある.それに比べ,湖風が卓越する日は,風速が相対的に弱く,地表面の気温の影響により内陸部では昇温しやすいと考えられる.市街地では湖岸付近から建物が立て込んでいる.湖風が市街地に吹き込んでも湖風の冷気はすぐに暖められ,内陸部への影響は小さいが,南の農地では,琵琶湖の冷気が比較的広範囲に影響を及ぼしていると考えられる.

4.引用文献
枝川尚資・中島陽太郎 1981. 琵琶湖流域の湖陸風の研究. 地理学評論54: 545-554.
田宮兵衛 1979.小気候・局地気象 特に移動観測の方法について. 天気26: 633-640.
寺島司 2002. 滋賀県彦根市における暖候期のヒートアイランド現象の実態と形成要因. 滋賀県立大学環境科学部生態学科卒業論文.

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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