日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 403
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世代交代期にある郊外住宅地の変容と持続可能性
*中澤 高志川口 太郎佐藤 英人
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抄録


1.はじめに
 資本主義の下では,住宅もまた一つの商品である.しかし多くの居住者にとって,苦心の末に手に入れたマイホームは,住み続けるうちに単なる消費財以上の存在となる.したがって多くの居住者は,多少の不具合はあっても,増築や補修を施しながら同じ住宅に住み続けることが普通である.
 建築から長い年月が経過し,住宅の老朽化が目立ってくると,最終的には改築や転居といった根本的な対処が必要になる.しかし誰もがこうした対処を実行に移せるわけではない.長年居住した住宅への思いを断ち切り,改築や転居を決意した後には,高額な商品という住宅の性質が再び前面に出てきて,必要な資金を調達できるかどうかが問われるからである.
 こうした局面では,居住に関する子供世代の行動も,親世代の動向に大きな影響を与える.仮に結婚した子供に親の住宅を引き継ぐ意思があるのであれば,二世帯住宅に建て替えて同居するという選択肢が浮上する.しかし30年前に開発された郊外住宅地のコンセプトは,たとえそこで育ったとはいえ,子供世代のニーズに合致しない場合が多い.一方経済的に自立することが難しい子供が同居している場合には,改築や転居の必要性を痛感していたとしても,身動きがとりづらいであろう.
 単体としての住宅およびその居住者である世帯のライフサイクルの晩期に現れるこうした問題は,住宅の集合体である住宅地ではある時期に集中的に発生し,問題をより大きくする.周知のとおり,日本では高度経済成長を支える労働力として流入した人口の受け皿として,大都市圏郊外に数多くの住宅地が開発された.それらの住宅地は,今まさに世代交代の時期を迎えており,上記のような問題が顕在化してきている.
 報告者らは,入居からおおむね30年以上が経過した住宅地において,住宅を購入した郊外第一世代と子供世代である郊外第二世代の動向に関する研究を行っている.一連の研究は,実証的な調査に基づき,世代交代期を迎えた郊外住宅地がどのような形で持続可能なのか(あるいは持続可能性はないのかを考察するとともに,郊外住宅地の変化が大都市圏全体の構造変容とどのように関連付けられるのかを明らかにすることを目的にしている.
2.調査概要
 本報告は千葉県四街道市の隣接する二つの住宅地において,2006年11月に実施したアンケート調査の分析結果を中心としている.アンケート調査は,分譲当時に住宅を購入した郊外第一世代を回答者とした.調査票は各住宅地に1,200通ずつポスティングで配布し,郵送で回収した.旭ヶ丘グリーンタウンからは150通,東武みそらニュータウンからは130通を回収した.
 旭ヶ丘グリーンタウンの事業主は藤田観光 (株) であり,1969年にすべての工事が完了している.総面積は50.4haで,2005年の住民基本台帳によれば世帯数は1,602世帯である.東武みそらニュータウンは新日本観光開発 (株) によって1975年に分譲が開始され,1978年に造成が完了している.総面積は64.7ha,世帯数は1,678世帯である.いずれの住宅地も最寄り駅のJR四街道駅からバスで15分程度の距離にあり,四街道から東京までは,朝の通勤時間帯であればJRで1時間程度の所要時間である.
3.分析
 両住宅地の住民層は似通っているので,ここでは合算した数値を示す.世帯主の平均年齢は63.6歳であり,60代後半が最多年齢層である.世帯主の63.6%は大卒以上の学歴を持ち,40歳の時点で従業員数1000人以上の企業に勤務していた者が53.3%,公務員であった者が10.4%である.また,東京大都市圏内に勤務地があった者の過半数は,東京都区部に職場があった.現住居に入居したときの年齢は39.9歳で,多くは30代後半から40代前半でこの住宅を購入している.彼らの72.5%は現住地に愛着を持っていると答えている.ただし,住み続けを積極的に希望するのは50.7%であり,27.8%は住み続けざるを得ないという消極的な選択肢を選んでいる.現住居の将来については,わからないとした者が最も多かった(29.3%)が,ほぼ同率の28.9%は子供が相続して住むだろうと答えた.これは,子供が相続した後で売却されるだろう(25.7%)を上回る回答率である.
 一方,既婚子の居住地は千葉県から東京都区部一帯に広がっており,2割程度は東京大都市圏外に居住している.265人の既婚子のうち,四街道市内に居住しているのは21人,親と同居しているのはわずか5人に過ぎない.発表当日は,親子の居住関係を含め,より詳細な分析結果を示したい.

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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