日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 614
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安達太良連峰鉄山における植生回復過程で生じたしっぽ状植生
*杉山 悠然
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抄録

1.はじめに
 しっぽ状植生とは,風衝砂礫地において,礫からその風下側に「しっぽ」のように細く長く伸びる植生群落(高橋・佐藤,1994)であり,大雪山(高橋・佐藤,1994;小山,2006)など,高山帯の植生景観として報告されてきた.ところが,近年,Resler et al.(2005)に見られるように,しっぽ状植生は,単なる風衝砂礫地における植生景観というだけでなく,風衝砂礫地における植生遷移を考える上で非常に重要な位置づけになってきている.こうした中で,安達太良連峰鉄山で見られるしっぽ状植生も,植生遷移過程との関連で考察する必要がある.安達太良連峰のしっぽ状植生は,火山活動による植生攪乱であることに加え,気候的な森林限界以下(WI値:35.4)に位置しており,従来報告されてきたしっぽ状植生と異なる.本研究では,このような安達太良連峰におけるしっぽ状植生の成因を明らかにする.
2.調査地の概要
 安達太良連峰は,福島県に位置し,標高1700m程度の火山群である.連峰最高峰の箕輪山まで亜高山帯低木林(キタゴヨウマツ,アカミノイヌツゲ等)を主体とする偽高山帯景観(Sugita,1992)が広がるが,噴火口である沼ノ平周辺の稜線上では,亜高山帯低木林が欠如し,裸地やガンコウラン等の矮性低木群落が見られる.しっぽ状植生は,この亜高山帯低木林が欠如した沼ノ平周辺の裸地に分布している.このうち,最も広範囲,かつ,数多く分布している鉄山のしっぽ状植生を研究対象とした.
3.調査結果と考察
 (1)鉄山周辺における植生景観
 沼ノ平を中心として半径約2kmの範囲,および,安達太良山から鉄山へ向かう稜線上で亜高山帯低木林が欠如し,矮性低木群落や裸地となっている.そのため,鉄山周辺の植生景観に関する調査項目を,沼ノ平の火山活動に伴う植生攪乱と,山頂現象に絞った.
 鉄山周辺の裸地において,地表面下5cm程度にBA層が認められた.つまり,鉄山周辺の裸地でも,かつては植物が生育していたと考えられる.
 また,鉄山周辺の風下斜面では,積雪深100cm以上の範囲が広く,亜高山帯低木林が分布している.一方で,風上斜面や尾根頂部では,積雪深50cm未満の範囲が広く,裸地や矮性低木群落が分布している.また,風上斜面や尾根頂部のうち風食作用が強い場所では,裸地化した風衝砂礫地となる.このように,山頂現象を呈している鉄山周辺の植生景観は,地形に応じて積雪深や風食などの季節風効果の程度が異なるために成立する.
 (2)しっぽ状植生
 しっぽ状植生は,尾根頂部の裸地化した風衝砂礫地に分布している.しっぽ状植生の構成種は,キタゴヨウマツなどの亜高山帯低木やガンコウランなどの矮性低木である.冬季には,礫の風下側に吹き溜まりが形成されて,雪がしっぽ状植生を覆う.ここでは,40cm以上の積雪が見られ,亜高山帯低木の侵入を可能とする.また,風食の強い尾根頂部においても,礫の風下側では,風食跡が認められなかった.
4.まとめ
 鉄山周辺の現在裸地となっている地域は,かつて植物に覆われていた.そして,火山活動によって植生が攪乱され,沼ノ平周辺に裸地が形成された.その後,徐々に植生が回復していくが,この植生回復する程度は,地形の影響を受けた季節風効果の差によって異なる.つまり,風下斜面は積雪が多く亜高山帯低木林となっている一方で,尾根頂部や風上斜面は積雪が少なく現在でも裸地か矮性低木群落となっている.加えて,尾根頂部といった風食が強く作用する場所は裸地となる.
 しっぽ状植生は,植生の回復が遅れている尾根頂部の裸地に点在する礫の風下側に成立している.礫の風下側では,冬季,吹き溜まりが形成される.この吹き溜まりは,植物を冬季の季節風から保護する.また,礫は植物群落を風食からも保護する.そのため,礫の風下側では,亜高山帯低木が構成するしっぽ状植生が形成され,風下斜面と同程度に植生回復が進んだ状態となる.ゆえに,安達太良連峰におけるしっぽ状植生は,植生回復の遅れている風衝砂礫地において,礫の風下側に選択的に植物群落が形成されたために成立したのである.
<出典>
高橋・佐藤(1994) 季刊地理学46,136-146.
Sugita(1992) Eco Res 7,119-132.
小山(2006) 明大文学部研究論集25,169-183.
Resler et al.(2005) Physical Geography 26,112-125.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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