日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 614
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白神山地周辺5地域の伝統的自然資源利用
*黍原 智美牧田 肇
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抄録

青森県西目屋村の目屋マタギや鯵ヶ沢町赤石川流域の赤石マタギに代表されるように、白神山地周辺の集落では伝統的に自然資源を利用した生活が営まれてきた。マタギだけでなく、山村の住民のすべてが集落の周辺に存在する自然資源を利用し生活してきたが、利用の実態には地域的な相違点と共通点がある。
本研究の目的は、1970年頃まで白神山地の山村住民によって代々行われてきた伝統的な自然資源を利用した生業を明らかにし、下の5地域間に見られる相違点と共通点を見出すことである。
調査地域は白神山地を囲むように、青森県西目屋村砂子瀬(すなこせ)、青森県鯵ヶ沢町一ッ森(ひとつもり)・大然(おおじかり)、青森県旧深浦町地区松原(まつばら)、青森県旧岩崎町地区松神(まつかみ)、秋田県八峰町旧峰浜村地区岩子(いわご)・大岱(おおだい)の5地点である。
聞き取りは自然資源をその集落の中で一番よく利用していると思われるマタギ(元マタギ)や狩猟を生業としてきた方々に対象を絞って行った。砂子瀬は工藤光治氏(1942年生まれ)から、一ッ森・大然は吉川隆氏(1950年生まれ)から、松原は前田秀夫氏(1937年生まれ)から、松神は板谷正勝氏(1941年生まれ)から、岩子・大岱は塚本清氏(1934年生まれ)から聞き取りを行った。
農業、狩猟、製炭業、薪材の伐採、漁労、採取の6項目の生業について調査した。
自然資源の利用は、砂子瀬と松原と一ッ森・大然では、自給的な色彩が濃く、岩子・大岱では、企業的な色彩が濃く、松神は沿岸漁業の生業に占める割合が大きいという大きな違いが見られた。
砂子瀬では、農地が少なかった為に、焼畑が行われた。砂子瀬、松原、一ッ森・大然の3集落ではマタギが伝統的な狩猟を行っていたが、松神と岩子・大岱ではマタギの活動はなかった。
岩子・大岱で特に企業的に行われていたのは畜産で、肉牛の放牧が行われていた。さらに山菜は現在でも重要な換金資源であり、昔からもっぱら売ることを目的に採取していた。
松神では、集落が海沿いにあり、昔はニシン漁が、現在ではハタハタ漁など、海面漁業に対する依存が大きい。代々続くマタギではなく、秋田県から炭焼きに来た人々に狩猟の方法を習った。
一年サイクルで生業を見ていくと、薪の伐採以外の生業はどの集落でもほとんど同じ時期に行っていた。松神ではこれにハタハタ漁や海藻の採取が加わった。このように、すべての集落で季節毎に生業があり、季節毎に自然資源を巧みに利用してきたことがわかった。
 山からの自然資源利用だけでなく、川からの自然資源として魚の利用、川を利用した木流しなど、川とも密接な関わりを持っていたことが分かった。さらに松神では、それに海からの自然資源が加わり、それが大きな役割を占めていた。
ゼンマイの縄張りや1本残し、伝統的な狩猟儀礼などから、自然資源の枯渇をさけ、持続的な利用ができるような手段を取っていることが明らかである。マタギの山の神への感謝や畏怖という精神もそれに繋がっている。
調査をさせて頂いた方々の自然資源利用に関する知識はきわめて豊富であるが、今後、その知識を持つ人々は少なくなるであろう。これを後世に残すことはきわめて重要である。

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