日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: S306
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変容する森と人のかかわり
─エチオピア南西部における森林資源利用・植生・社会の動態─
*佐藤 廉也
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抄録
 この報告では、エチオピア南西部の森林地域に居住し焼畑・採集・狩猟を営む集団(マジャンギル)を事例とし、20世紀前半期から現在にいたる資源利用、森林・サバンナ植生、人口(出生力)、集落パターン、集団間関係の通時的変化をいくつかの画期を設定して概観し、各時期の様相を規定する諸要因について考察する。
 マジャンギルはエチオピア南部高地と低地サバンナのはざまに分布する常緑熱帯林にもっぱら居住し、森林域での焼畑・狩猟・森林産物採集活動によって生計をたてる人々である。高地草原や低地サバンナに住む隣接民族とははっきり異なる、森林に依存する資源利用・生業戦略をとってきた。森林に住むようになった歴史的深度は不明だが、サバンナや高地の隣接民族との関係のなかで森での生活にニッチを占めるに至った集団であると考えられている。
 1960年代までのマジャンギルは、2~10世帯ほどで構成される小集落に居住し、頻繁な集落放棄・移住によって移動性の高い生活を送っていた。集落移動は焼畑地の休閑と植生遷移を促し、持続的な森林植生の形成に大きな影響を与えていた。ただしマジャンギルの集落移動は、森林の持続的利用を目論んでなされるわけではない。過去に集落放棄の原因となった出来事を調査した結果、その多くは社会的な軋轢(氏族間・民族間の紛争、奴隷交易、呪いなど)を原因とするものであったことがわかっている。氏族、民族間関係やエチオピア政府との不安定な関係のあり方が、頻繁な移動生活を促し、その結果として現存の森林植生の成立に影響を与えていたのである。
 以上のようなマジャンギルの状況は、1970年代末からはじまったエチオピア社会主義政権の定住化政策によって大きく変わった。小集落を形成してきた人々は定住性の高い人口数百人の大集落をあらたに形成し、焼畑は大集落周辺に限っておこなわれるようになり、いっぽうでかつて森林域に広く分布していた焼畑伐採地の多くは森林に還っていった。このような「移動性の高い分散型の焼畑」から「定住度の高い集中型の焼畑」への変化は、主として従来の集落移動を促していた様々な社会的軋轢が緩和されることによって生じたものであるといえる。民主化や民族自治が新政権に標榜されるようになる1990年代以降になると、さらに定住村の規模は拡大し、それに伴って土地利用や集落景観は大きく変貌し、市場経済への依存度も急速に増していった。定住化の受容を引き起こした要因は治安状況をはじめとする社会的軋轢の解消にあったが、ひとたび定住化がすすむと森林と人との関係はあらゆる側面において連鎖的な変容を引き起こしたとみることができる。報告では、これらの連鎖的な変容の実態を紹介・検討する。
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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