日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 402
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複数の空間分割の相互関係を分析する手法の開発と適用
*貞広 幸雄笹谷 俊徳
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キーワード: 空間分割, 階層性, 粗度
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抄録
空間分割は,地理学における最も基本的な空間構造の一つである.行政区,郵便番号区,選挙区,学区,商圏,駅勢圏,植生区域など,一つの地域には多様な空間分割が互いに影響し合いながら存在している.本論文では,こうした空間分割間の関係を体系的に記述,可視化する手法の提案とその適用を行う.特にここでは,空間分割構造を特徴づける性質の一つである,分割間の階層性に着目し,階層的な類似性という視点を取り入れた手法を提案する. 本論文では,まず2つの空間分割対の関係を記述し,次に,3つ以上の空間分割の関係を分析,可視化する. 2つの空間分割対の関係は,階層性という視点から,1) 同一,2) 包含的階層関係,3) 相補的階層関係,4) 非階層関係,の4つに分類される.このうち2)は,ある分割に含まれる全ての領域がもう一つの分割のいずれかの領域に完全に包含されるときを指し,前者を下位分割,後者を上位分割と呼ぶ.一方3)は,ある分割に含まれる領域のいくつかがもう一つの分割の領域に完全に包含され,他の全ての領域がもう一つの分割の領域を完全に包含するときを指す. これらの関係を定量的に記述し,2つの空間分割対の類似性を評価するために,2つの指標値を導入する.一つは包含的階層距離であり,ある分割で同一,もう一つの分割で異なる領域に含まれる点対の割合のうち,いずれか小さな方の値で定義される.この距離は,2つの空間分割対が包含的階層関係にある場合には0,そこから乖離するほど大きな値となる.もう一つの指標値は相補的階層距離であり,空間的な重複を持つ全ての領域について,2つの空間分割でどちらも異なる領域に含まれる点対の割合を指す.この値も,2つの空間分割対が相補的階層関係にある場合には0,階層性が小さくなると大きくなるという性質を持つ. 2つの空間分割対の関係を見るもう一つの視点として,空間分割の粗度を導入する.粗度とは空間分割の詳細さを示す概念であり,ここでは任意の分割について,同一領域に含まれる点対の割合として定義する.粗度を用いると,2つの空間分割対の類似性を,それぞれの粗度の差の絶対値によって提供的に評価することが可能であり,この値を粗度距離と呼ぶ. 上記指標に加えて,さらに2つの重ね合わせ操作を定義する.上位融合とは,2つの分割の領域境界のうち,共通するものだけを残して重ね合わせたもの,下位融合とは,双方の領域境界を全て残した状態で重ね合わせたものを呼ぶ. 以上の概念を用いると,空間分割をノード,階層関係をリンクとし,粗度を縦軸にとった図式を用いて,3つ以上の空間分割同士の関係を以下のように可視化することができる.ここで,空間分割対の融合操作は,分割対と,それが共有する上位・下位分割との組み合わせによって表現される. この図式を利用し,クラスター分析を適用すると,複数の空間分割を階層性及び粗度という観点からいくつかの集合に分類することができる. 以上の手法を,現在検討されている道州制の33の候補案,及び,国及び各種団体の支分部局の管轄区域を表す34の空間分割群に適用し,それぞれに含まれる空間分割の相互関係の記述と分類を行う.その結果に基づき,提案した手法の妥当性を評価し,今後の課題について論ずる.
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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