日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: S105
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人口減少時代を迎えた東北地方の都市システムの構造変化
*高野 岳彦日野 正輝
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抄録

1.東北都市を取り巻く状況認識 2000年国勢調査人口を基準にした将来人口推計によれば(国立社会保障・人口問題研究所編2004)、2000年現在の東北63都市のなかで2030年推計人口が2000年人口を上回る都市はわずか9都市に限られ、残り54都市はいずれも減少する。しかも、高齢化が進行し、63都市全体の高齢人口比率は2000年18%から30%へと増大する。これらの数値だけからも、東北地方の都市人口が21%増加した1970~2000年の状態とは大きく異なった状況がそこに出現することは容易に予想される。そのほか、趣旨説明で紹介した社会変動が進行する。 他方,東北地方の都市的集落の配置体系は,近世の領国中心地や農村の市場町としての商業機能に支持されたものが大半で,近代以降に鉱工業や開拓拠点として都市化した少数例(釜石,郡山など)を除けば,中心地理論によくフィットした安定的な階層構造を示すものとして認識されてきた。しかし1970年代後半から続いた高速交通網の延伸や幹線バイパスの整備,大手スーパーの地方進出や流通革新による地場卸小売業者の意義低下,効率化を指向してきた行政サービス機能の統廃合,そして何よりも高度経済成長終焉後も続いた周辺農山村での人口減少・高齢化によって,中心機能と中心地の淘汰は避けがたかった。 東北の都市システムが従来と大きく違った状況下で果たしてどのように機能するか、またどのような問題に直面するかを検討することは必要である。ここでは、都市階層別に予想される状況を提示して、将来の東北都市の姿を描くための情報提供としたい。 2. 仙台および県庁所在地級都市が直面する課題  仙台および県域中心都市は戦後の高度経済成長期以降それぞれ地方ブロックおよび県域の中心都市としての地位を高めてきた(日野、1996)。しかも、全国企業が地方ブロックおよび県域を単位にした支店を配置したことが、当該都市の中心性の増大に大きく寄与した。しかし、1990年代後半以降、当該都市における支店の集積量が減少に転じて、現在に至っている。この減少は一過性の現象というよりも構造的変化と捉えられる。したがって、支店集積の増大を将来展望において期待することはできない。  支店の動向と並行して、当該都市の産業構造に一定の変化が進行している。全産業の規模自体が縮小しているが、卸売業、建設業、金融保険業などにおいて従業員の減少が続いている。対事業所サービス業、医療および福祉などのサービス業分野において増大が認められるが、今後の人口減少のなかで、高次サービス機能の集中が予想される。そのとき、県域中心都市の中に当該機能の低下を招く都市が現れる可能がある。道州制などが導入された場合には、なおさらである。 3.地方小都市,低次中心地  郡程度の地域の中心地としての役割を担ってきた地方小都市は,高度経済成長期には周辺農村の人口を吸引して人口増を示す場合が多かったが,1980~2000年でみると,人口増加は北上河谷(=盛岡)以南の国土幹線地帯に集まり,日本海側を主とする他の地域と対照をなした。これは1980年代に急増する工場進出と相関する。しかし同じ国土幹線沿線に位置する古川と白石を比べると,後背地の広狭による商勢差の拡大が明らかである。 さらに下位の中心地の趨勢を,宮城県北の農村地帯の市町村(2000年時)の1982年以降の商圏変化から確認したところ,買回品の地元購入率を維持したのは古川市のみで,他の32町村はすべて激減させ,そればかりか最寄品でも同様の趨勢であったことが確認された。これらの町村でみるべき中心商業機能をもっていたのは役場所在地の中心集落のみであることから,農村中心地の中心性の喪失はさらに著しいものであることがわかる。 4.低次中心地が直面する課題 消費需要の減少は自動車アクセス性の向上ともあいまって、低次中心地のさらなる淘汰は避けがたい。淘汰・統合されたサービス拠点の側から高齢顧客への機動的なアクセスシステム,経済施設というよりは社会施設としての共同店のような施設の評価が求められるだろう。 国立社会保障・人口問題研究所(2004):『日本の市区町村別将来推計人口』厚生統計協会。 日野正輝(1996):『都市発展と支店立地』古今書院。

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