抄録
中米・エルサルバドル共和国中部に位置するイロパンゴカルデラ(約8 × 11km)で、A.D.3~5 世紀に大規模な噴火が生じ、カルデラ周辺に軽石流が流下したほか、TBJ テフラと呼ばれる細粒火山灰が広い範囲に降下堆積した。メソアメリカ考古学では、従来、この噴火が、当時のメソアメリカの社会に壊滅的な影響を与え、都市の放棄や人口の移動を引き起こしたとみなすことが多かった。
しかしながら、本調査では、従来約50cm の堆積がある(Hart & Steen-Mcintyre、1983)とされたチャルチュアパ(カルデラの約70km 北西)において、16~18cm 程度の堆積しか見出されなかった。したがって、チャルチュアパ遺跡に降下堆積したTBJ テフラの堆積は下方修正する必要がある。また、先行研究(Hart & Steen-Mcintyre、1983)の調査結果を再検討したところ、層厚の過大評価や、対比の誤りの可能性が見出された。このため、イロパンゴカルデラの3~5 世紀の噴火規模を明らかにし、当時の社会への影響を評価するには、より広い地域で、より詳細なTBJ テフラの分布調査を行っていく必要がある。