日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 509
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十勝断層帯における中期更新世以降の河川の大規模な流路変更
*鈴木 啓明今泉 俊文石山 達也
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抄録
1. はじめに
 北海道十勝平野北東部付近の利別川・音更川・士幌川流域では,過去に大規模な流路変更が生じたことが示唆されている(三谷ほか 1976,十勝団体研究会 1978,池田ほか 2002).しかしその変化の時期や原因については不明な点が多い.本発表では,地形学的手法により推定される十勝平野北東部付近の河川の流路変更について紹介し,その原因を考察する.

2. 調査地域
 対象地域の東部は主稜線の標高が400-700m程度の白糠丘陵,中央部は頂面の標高が200-400m程度の居辺台地および長流枝内丘陵,西部は中期更新世以降の河成段丘が発達する十勝平野である.十勝平野の北側は,後期中新世から現在にかけて火山活動が活発な石狩山地に属する.
十勝平野は,後期中新世以降の千島弧外弧の西進に関わって白糠丘陵の西側に生じた構造盆地をその原型とする.現在,居辺台地・長流枝内丘陵とその西の平野部との境界に,活断層(十勝断層帯)がみられる.これは更新世に,活断層の位置が約30km西へ移動したものと考えられている(池田ほか 2002).

3.河成段丘の分布と流路変更
 本地域の河成段丘を,高位から上旭ヶ丘軽石流堆積面,上旭ヶ丘面,北居辺I面,上更別面,北居辺II面,上帯広I面,上帯広II面,上帯広III面の8面に区分した.上帯広I面,上帯広II面は,それぞれ利別川およびその支流に沿って連続性がよく,現河床と比べ直線的な勾配をもち,下流側では沖積面下に埋没する.十勝川以南の地域では,上帯広I面はステージ3頃までに,上帯広II面はステージ2頃に,それぞれ形成されたとされている(平川・小野 1974; 小疇ほか 2003).
 上旭ヶ丘面は十勝断層帯を横切り,長枝流内丘陵付近に北西-南東の最大傾斜方向をもって分布している.これはかつての音更川が形成した巨大扇状地を起源とすると推定されている(池田ほか 2002). 一方,北居辺I面は,ほぼ十勝断層帯に沿って南北方向に分布し,十勝断層帯の東側の長流枝内丘陵内には分布しない. また,北居辺II面以下の面は,美里別川および居辺川の現在の流路に沿って発達している.現在,美里別川および居辺川の流域は十勝断層帯の上盤側である長流枝内丘陵を横断し,断層帯下盤側である十勝平野に及ぶ.美里別川と居辺川の分水界,居辺川と士幌川の分水界はいずれも谷中分水界となっており,前者では士幌川の最上流部が,後者では居辺川の最上流部が,それぞれ風隙谷となっている.
 以上から本地域付近では,以下(1),(2)に示す,時期を異にした河川の流路変更が生じたと考えられる(十勝団体研究会 1978).
(1):上旭ヶ丘面形成期から北居辺I面形成期にかけて,十勝断層帯を北西-南東方向に横断していた流路(旧音更川)が,十勝断層帯付近で隔たれ,南北方向の流路へと変化した.
(2):北居辺I面形成期から北居辺II面形成期にかけて,利別川支流の美里別川と居辺川の谷頭部が十勝断層帯の西に及び,それ以前に南北方向に形成されていた流路の一部を奪った.

4. 考察
 先に述べた(1)の流路変更の時期を知るには,上旭ヶ丘面および北居辺I面の形成時期が鍵となる.この2面はいずれも中期更新世に形成された段丘と考えられるが,その形成年代は不確かさが残っており,今後検討したい.一方,先の(2)に示した美里別川および居辺川による南北方向の流路の争奪は,いずれも北居辺II面およびその低位の上帯広I面形成以前,すなわちステージ4-3頃よりも前に遡ると推定される.
 流路変更の原因は,十勝団体研究会(1978)が示すように,(1)に関しては,十勝断層帯の上盤側(居辺台地・長流枝内丘陵)の隆起によって北西-南東方向の流路が遮られたため,(2)に関しては,美里別川および居辺川の谷頭侵食が進んだためと考えられる.一方,音更川上流域の石狩山地内では,中期更新世における火山活動について報告があり(例えば小疇ほか 2003),上旭ヶ丘面や北居辺I面の形成およびその前後の流路変更は,石狩山地内の火山活動による岩屑供給量の一時的な増加と,関連づけて論じられる可能性がある.

5. 今後の課題
 今後,テフラを用いて河成段丘の離水年代を推定し,流路変更の時期を絞り込みたい.また十勝断層帯付近の地形面および地層の変形や,上旭ヶ丘面や北居辺I面の堆積物の礫種構成について調べ,地殻変動や火山活動が河川の流路変更に与えた影響について考察していきたい.

謝辞:本研究を進めるにあたり,北海道大学の平川一臣先生,東北大学の大月義徳先生にご教示頂きました.記してお礼申し上げます.
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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