日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 110
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上海におけるアニメーション制作企業の立地要因
*山本 健太
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抄録


 1990年代後半以降,先進国の大都市経済の牽引者として文化産業が期待され,注目を集めてきた.文化産業は大都市集積と国際分業を特徴とする.当該産業の分業先地における産業構造についての研究は十分とはいえない.本研究は文化産業のひとつであるアニメーション産業を取り上げる.今回は海外との分業下に発展してきた中国,特に上海に立地する制作企業を対象とする.上海には多くの制作企業が立地し,産業構造を示すに適した都市である.
 2006年10月および2007年8月に上海を中心として調査をした.上海に立地する企業6社のほか,上海にある産業団地1組織,業界団体2組織,無錫市,杭州市に立地する企業各1社および産業団地各1組織を対象として聞き取り調査をした.加えて,上海の企業3社に所属する労働者を対象としてアンケート調査を実施し,48人から回答を得た.本発表では調査結果の一部を報告するとともに,中国におけるアニメーション制作企業の立地要因について企業間取引,労働者の側面から考察を試みる.
 産業概要)中国アニメーション産業は1980年代以降,日本およびアメリカの下請け産業として発展してきた.現在,国内市場が急速に発展する一方で,主要な市場は海外下請け生産である.
 中国におけるアニメーション制作企業の立地は北京,上海,広州周辺に集中している.地方都市においては,誘致政策,優遇政策が採られている.無錫および杭州に立地する企業は立地理由に政府による政策の存在を挙げた.
 上海市内における企業の立地をみる.企業の立地は市内中心部に分布する.特に内環内西部に多い.この地域にはA社をはじめ大手制作企業が多く立地し,スピンオフや仕事を求めた小さな制作企業が集まった.A社に立地場所を選択した理由を尋ねたところ,近隣に映画撮影所があり初期の設備投資を解消できたためであるという.上海市郊外に立地する企業について立地場所選択の理由を尋ねたところ,海外主要顧客との取引のために空港からのアクセスを重視したという.
 企業間取引)A社を除く全ての企業で海外取引が売上額の70%以上を占めていた.海外企業と取引をする理由については,国内市場の制度が十分でないこと,海外市場においては利益が得られることを挙げた.また,取引の際に重視する事柄については,支払いに対する信頼および中国国内での商品化権の獲得を挙げた.支払いに対する信頼は,企業規模により判断するもの,支払いシステムにより判断するもの,継続的な取引により判断するものがみられた.中国国内での商品化権の獲得を重視するのは,中国では制作企業がアニメーションの制作者のほか,国内配布者としても振る舞うためである.
 労働者)国内市場向け製品の生産に特化するA社,国内および海外との取引のあるC社,日本との取引に特化したF社について,労働者に対してアンケート調査をした.基本属性について,平均月収は上海市平均よりも高い.雇用形態ではA,C社の場合,合同制が最多である.一方でF社の場合,アルバイトが過半を占める.また,いずれの企業も地方出身者が少なくない.労働者採用に当たっては,いずれの企業も技術力を重視する.A,C社の場合,全国を対象に労働者の募集をする.F社の場合,全国規模での募集はせず,先輩労働者が同郷の後輩を呼び寄せる.技術習得機会をみると,F社労働者は先輩による指導が最も多い.労働者が上海で仕事を継続する理由について尋ねたところ,上海が魅力的な都市であることが挙げられた.
 以上のように,中国においては地方分散を促す政策的動きのある一方,上海を志向する動きも存在する.国内を主たる市場とするのは大手企業に限られる.一部の制作企業は大手企業との近接性,海外顧客とのアクセス,上海に形成される高い技術を持った労働市場を求めて上海を志向する.

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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