日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 709
会議情報

デルタ型マングローブ林の大規模な破壊と修復メカニズムに関する実証的研究
*宮城 豊彦斎藤 綾子ビエン ノク ナム
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録


 ベトナム戦争時に、枯葉剤の散布によって極めて激しい破壊を被ったホーチミン市郊外のカンザ地区に発達していたマングローブ林について、その修復過程を画像解析や植林データデータなどから明らかにした。結果、現在における地域の全森林面積のなかの約50%が植林によって、残りは自然に修復されたことが明らかになった。修復の過程をGIS用いて追跡すると、1973年から1994年に賭けて、地域住民の指向に沿った樹種選定と植林が敢行され、19000haの人工林が形成された。1994年頃からは植林に代わって自然林の拡大が顕著になり、それも2002年頃からはあまり目立たなくなった。
 マングローブ生態系における群落構造の形成は、潮間帯上半部の地盤が確保されること、種子の散布と定着があることで条件が設定され、この条件下で地盤高(冠水頻度)に応じた樹種の群落配列が構築される。現在確認されるカンザ地区のマングローブ林は、枯葉剤散布以前のそれとは大きく異なっており、破壊された森林が回復したというより、新たに創出されたといったほうが現実的である。さらに、その過程は人為と自然プロセスが関連したものと解される。
 そこで、地形・堆積物・森林構造の詳細なデータを構築すると共に、そこで営まれた地盤の再構築過程に注目して土壌浸食と堆積過程の解析を実行した。その結果、未固結の粘土が卓越するデルタからこの地域では、裸地化した地表面に雨滴による激しい土壌浸食の発生、緩慢な縣濁流による粘土粒子のマングローブ林地周辺への移動、潮汐水との混合による迅速な沈殿のプロセスが、森林の再構成に大きな意味を持ったと考えられるに至った。
 森林の被覆がほぼ回復した現在は、激しい土壌浸食は見られず、森林内群落配置が再構成されるステージにある。
 地形プロセスと森林の形成が相互に関連しあって推移する実例として注目される。 

著者関連情報
© 2008 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top