1.はじめに
日本付近では,一年を通して前線の出現がみられ,その中でも梅雨期と秋雨期において顕著になることが知られている.このうち梅雨期についてはその知名度や農作物への影響,また梅雨入りや梅雨明けの発表などもあり,今までにさまざまな解析が行われているが(たとえば吉野(1965)など),秋雨期についてはまだあまり解析がなされていないのが実情である.
そこで本研究では,日本付近の秋雨期における前線の出現頻度を作成し,近年における特徴を探った.
2.研究方法
まず,気象庁が作成している地上天気図を用い,毎日00世界標準時(UTC)における前線の位置を把握した.この際に使用する断面として東経110度から東経170度断面まで10度毎に7断面とした.この7断面について天気図の範疇で断面と前線が交わる緯度を読み取った.この時読み取り誤差なども考慮し,0.5度間隔のデータとした.
次に,このデータを縦軸に緯度,横軸に年とする図に断面・月毎に出力した.ただしデータを直接使用すると出現する前線の数があまりにも少なくなり,全体的な傾向を見出すことが困難になると判断したため,該当緯度を中心とした5項目合計値(±1度以内の前線出現数の総計)を使用した.
最後に作成した図より近年の前線出現の特徴を調査した.
3.結果
今回は東経140度断面についての結果を以下に述べる.
まず,8月についてみてみると(図1),北緯30度から北緯40度にかけて,数年おきに頻度の高い年が現れた.特に1993年,1995年,1998年,2003年と2004年では他の年と比べてもその出現は顕著であった.これらは,日本において冷夏,もしくは北冷西暑となった年と対応する可能性が高い.
また,北緯42度付近においては主に「蝦夷梅雨」によるものと推察される別のピークが1980年代から1990年代前半にかけて現れた.
次に9月では(図2),北緯33度から北緯35度付近にかけての前線の集中帯が明瞭に現れた.特に1990年代前半における出現が多く,近年では集中帯がやや広くなる傾向が認められた.
さらに,1989年では特異的に北緯40度付近に出現頻度のピークが現れていたが,これは9月前半に東北地方に停滞した秋雨前線の影響が現れたものではないかと推測される.
最後に10月においては(図3),北緯30度から北緯35度付近にかけて前線出現の集中帯がみられたが,この中でも特に1990年代前半における出現が多かった.また1990年から2000年にかけて,この集中帯が徐々に南下する傾向が明瞭に現れた.