日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P121
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山形県川西町の古日記天候記録を用いた1830年~1980年の気候復元
*財城 真寿美大羽 辰矢平野 淳平森島 済
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抄録


1.はじめに
 過去の気候の復元には、様々な代替データが用いられるが、日本では各地に残された古日記の天候記録を使用した事例が数多く報告されている(谷治・三沢 1981など)。山形県では青山(1994)が東置賜郡川西町で稲刈帳を用いて1710年から1860年までの気候復元を行った。
 本研究では古日記に記された天候記録を用いて、山形県東置賜郡川西町周辺地域の小氷期を含む1830年から1980年までの気候を復元することとした。さらに、日本では季節イベントとして長く雨天が継続する梅雨が見られるため、降水日数の天候割合により、梅雨入り、梅雨明けが判断可能と考えられる。そこで、梅雨期間に着目し、その長期変動を検討した。また東北地方は盆地毎にも気候が異なるため、米沢盆地の一部である川西町の気候を復元することは意義がある。

2.資料・復元方法
 本研究で用いる資料は、「川西町史上巻」に整理・収録された「竹田源右衛門日記」の天候記録を用いる。この記録は山形県東置賜郡川西町の下小松で記され、1830年から1980年までの記録があり、欠測が全くない。解析に際し、天候記録を『晴』、『曇』、『雨』、『雪』、『風』の5種に分類し、電子化を行った。
 梅雨期間の決定とその長期変動を検討するため、天候記録のデータに11年移動比と11日移動比の処理を行った。次にt検定により、『雨』の天候割合を用いて「梅雨」入り・明けを、『雨』および『曇』の天候割合を用いて「梅雨空」入り・明けの月日を決定した。5月の梅雨入りや8月の梅雨明けも考慮に入れるため、検定期間は各年の5月1日~8月31日までの123日間とした。各年について1日毎に前後20日間の天候割合に有意な差があるかを検定し、検定統計量が棄却域となり、かつ最も大きい場合にその年の「梅雨」、「梅雨空」入り、および「梅雨」、「梅雨空」明けとした。

3.梅雨期間の長期変動
 復元した「梅雨」、「梅雨空」入りと「梅雨」、「梅雨空」明けの長期変動を図1に示す。また、1835年~1975年(151年間)までの平均的な梅雨入り、梅雨明けをt検定で求めた結果、平均的な梅雨入りが6月19日、梅雨明けが7月19日であった。
 梅雨入りの特徴的な年代としては、1868年を中心とする年代から顕著に早まり、1897年を中心とする年代まで続く。その後、約20年間隔で梅雨入り日の変動が見られる。
 梅雨明けでは、1882年ごろから徐々に梅雨明けが遅くなり、その傾向が1892年を中心とする年代まで続く。1893年~1896年については有意な差が見られず,梅雨明けが決定できないため空白とした。1897年~1907年を中心とする年代では、8月9日~8月12日で推移していき、平均的な梅雨明けより21日~24日遅い傾向となる。1923年~1929年を中心とする年代では、梅雨空明けが梅雨明けより遅い傾向となり、梅雨が明けた後もどんよりと曇った天候が続いていたと考えられる。

参考文献
青山高義 1994.山形県の小氷期後期における気候の復元について.東北日本における環境変化に関する研究.山形大学特定研究経費報告書 102-123.
谷治正孝・三澤明子 1981.天保飢饉前後の気候に関する一考察.横浜国立大学理科紀要 28: 91-108.

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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