日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P123
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樹林で構成される緑地での冷気の鉛直構造
流山市市野谷の森を事例として
*内山 真悟森島 済
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キーワード: 流山市, 緑地, 冷気, 気温, 鉛直観測
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抄録


1.はじめに
 緑地によるヒートアイランド緩和効果に関する研究は新宿御苑や明治神宮・代々木公園など都市内緑地を中心として数多く行われており、緑地から流出する冷気の到達範囲や緑地内の冷気の鉛直構造など、ヒートアイランド緩和効果が期待される緑地内冷気の構造が明らかにされている(例えば、成田ほか 2004; 浜田・三上 1994)。しかし、これまでの研究で対象とされている緑地は樹林や芝生、池などの複数の要素で構成されているため、樹林のみで構成される緑地の冷気の鉛直構造は従来の研究結果とは異なると考えられる。
 本研究は千葉県流山市市野谷の森を対象として、緑地全域が樹林で構成される緑地において形成される冷気の鉛直構造および緑地外へ流出する冷気の鉛直構造を明らかにすることを目的としている。本報では2007年夏季に行った気温の鉛直観測の結果から、緑地中心付近(以下、緑地中心)からに緑地縁辺部(以下、縁辺部)かけて流出する冷気の鉛直構造について報告する。
2.観測方法
 樹林で構成された緑地内の冷気の形成過程と冷気の流出を把握するため、緑地中心と縁辺部で定点観測を行った。観測高度は0.5、3、5、10mで、2007年7月21日-9月30日の間に行った。観測間隔は1分間隔である。センサーには塩ビ管を2重にして外側を断熱シートで覆った自作シェルターを用いている。
3.緑地中心から縁辺部への冷気の流出
 緑地中心と縁辺部の気温に冷気の流出による対応関係が見られた8月16日0-5時にかけての縁辺部(a)と緑地中心(b)の各高度の気温変化を図に示す。
 緑地中心は0-5時にかけてどの高度も緩やかな気温低下を示すが、縁辺部では1時半(図a A1)、2時30分-3時(図a B1)に明瞭な気温低下を示す。縁辺部において明瞭な気温低下を示したA1とB1の時間に着目して緑地内部の気温を見ると、A1とB1の時間より30分-1時間ほど前から気温低下が他の時間帯に比べて弱い、もしくはほぼ横ばいとなっている(図b A2 B2)。これは緑地中心で形成された冷気が縁辺部へ向かって流出し、縁辺部は明瞭な気温低下が起こり、緑地中心では冷気を流出したために気温低下が弱められたのではないかと考えられる。このような傾向は緑地中心と縁辺部の全ての高度で見られることから、冷気は緑地中心で10mまで到達し、10mの厚さを保ちながら縁辺部へ流出していると考えられる。また、緑地中心から縁辺部への冷気の流出を把握するため、縁辺部の気温低下が最も大きかった3mの気温を用いてA1の気温低下について、緑地中心と縁辺部を比較してみると、1時半の縁辺部の気温は約27.8℃、緑地中心の気温は約26.8℃であることから1℃の気温差を生じていることがわかる。そして縁辺部の気温低下後の1時35分頃の気温は27.2℃であり、1時半の緑地中心の気温より高い。そしてB1の気温低下も、A1の結果と同様の傾向が見られるため、これらの現象は緑地中心から縁辺部へ冷気が流出していることを示唆しているといえる。

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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