抄録
1 はじめに
可視域から中間赤外域の人工衛星の受動型センサにより山地
を観測すると,地形効果と呼ばれる陰影が発生する.これは,
斜面への入射光が太陽と斜面の相対的位置関係(太陽入射角i )
によって変動するためであり,データを利用する上で大きな誤
差要因となる.そこで,地形効果を補正する研究が多数行われ
てきた.
現在までの研究によって,太陽高度の高い時期の画像につい
ては良好な補正結果が得られる補正法が開発されている.しか
し,直達光成分の小さい太陽高度の低い時期や起伏の激しい山
岳地域の画像に有効な補正法は示されていない.
そこで本研究では,太陽高度が低い時期における起伏の激し
い地域の画像に適用可能な新しい地形効果補正法を提案する.
手法には,計算が簡便で一般に使用しやすい経験的手法を用
いる.
2 研究手法
2.1 使用データ
本研究では,急峻な山岳地帯である赤石山脈の約10×10km
の範囲を対象地域として研究を行った.使用した衛星データは,
2004 年11 月10 日撮影のEOS-Terra/ASTER データの可視・
近赤外3 バンド(Band1∼3)である.正確な地形効果補正を行
うためにはDEM と衛星画像の整合性が重要となるため,オル
ソ補正済みのレベル3A プロダクトを使用した.使用した衛星
画像を図1(a) に示す.観測時の太陽高度は36.1◦ と非常に低
く,使用した画像には直達光が当たらない部分が多く存在する.
DEM については,北海道地図社製GISMAP Terrain(10m
メッシュ)を用いた.衛星データに合わせてピクセルサイズ15
× 15m で共一次内挿法によるリサンプリングを行った.斜面
傾斜角および斜面方位の算出には,8 近傍法を用いた.
2.2 補正方法
ある任意の斜面に対する入射光を考えると,太陽入射角の余
弦cosi が正の部分においては太陽からの直達光成分が支配的で
あるのに対し,直達光が当たらないcosi が負の部分においては
天空光や環境光といった散乱光成分が占めるようになる.そこ
で,本研究ではcosi が正の部分と負の部分とで別々に回帰直
線を求めるDPR(Dual Partitioning Regression)法を提案す
る.DPR 法では,土地被覆別,標高ごとに抽出したサンプルを
用いて横軸にcosi,縦軸に補正前の輝度値Do をとった散布図
を描き,cosi が正の部分と負の部分で別々に求めた回帰直線の
傾きを補正パラメータとする.補正式は,以下のようにcosi=1
のとき補正後の輝度値Dc が補正前の輝度値Do と等しくなる
ように導出した.
Dc = Do + mp · (1 − cos i) (cos i ≥ 0) (1)
Dc = Do + mp − mn · cos i (cos i < 0) (2)
ここで、mp はcosi が正の部分の補正パラメータ,mn はcosi
が負の部分の補正パラメータであり,それぞれの回帰直線の傾
きとして求められる.
3 結果と考察
DPR 法を用いて地形効果補正を行った衛星画像を図1(b) に
示す.補正後の画像(図1b)は平面的に見え,補正前の画像
(図1a)と比較して地形効果が大きく軽減されていることが分
かる.
補正後の輝度値とcosi との関係を図2 に示す.いずれのバ
ンドにおいても,補正後の輝度値とcosi との回帰直線の傾きの
大きさは1 以下,相関係数の大きさは0.03 以下と非常に小さい
値である.これは補正後の輝度値にcosi 依存性がないことを示
しており,太陽高度が低い時期の画像に対する地形効果補正法
としてのDPR 法の有効性が示された.