抄録
地域研究を活性化するための一つの手段として、さまざまな機関や研究者が収集した地域情報を統合することが考えられている。本発表では、地域情報を統合化する方法と、統合化された地域情報の高度利用について提案する。地理学では、GISの発展に伴って地域情報の素となるデータを地理情報として定義し、地理情報を取得、蓄積、操作、分析、表示する方法について研究が進められてきた。
日本大学文理学部では、学術フロンティア推進事業の一環として、「地理情報デジタルアーカイブの構築と高度利用」の研究を進めてきた。地域情報を統合化する方法としては、そこで研究された地理情報デジタルアーカイブが参考になる。地理情報デジタルアーカイブとは、インターネットなどの情報ネットワークを通じて地理情報を入手し、共用するための地理情報サーバである。地理情報デジタルアーカイブの一つとして、世田谷区の地理情報を蓄積した地理情報サーバを構築した。世田谷区は、日本大学文理学部が所在する区であり、地理情報技術を通じて地元地域へ貢献することを最終的に目指すため、研究対象地域の一つに選ばれた。サーバに蓄積したデータは、空間データ、属性データ、地図作成ファイル、地図画像の4種類であり、それぞれshpフォルダ、dataフォルダ、aprフォルダ、jpgフォルダに蓄積された。
地理情報デジタルアーカイブに蓄積されている地理情報を、クライアントのコンピュータ上で表示するには、地理情報サーバにアクセスし、shpフォルダに入り、使用したい地理情報に対し3種類(あるいは5種類)の拡張子を持つファイルをクライアントのコンピュータにダウンロードする。クライアントのコンピュータでArcGISが利用できるならば、ダウンロードしたファイルを使用して、レイヤを表示することができる。
属性データは、国勢調査、事業所統計など、国が主要統計調査データとして公表したものを、世田谷区の部分だけ取り出し蓄積している。また、特別区民税・都民税調定額、基準地価格、水準点の位置と高さは、世田谷区が報告書やホームページで発表しているものである。さらに、駅乗降客数は、区内の駅についての資料から入力したものである。いずれの属性データも、ArcGISで利用できるようテキスト(タブ区切り)形式で保存されている。
近年、国や地方自治体、民間企業は、様々な種類の地理情報を作成している。地理情報は、量的に拡大するとともに、質的にも改良されている。たとえば、標高データは、50mメッシュから5mメッシュへと、100倍も詳細度が上がっている。同様に、人口データも市区町村単位(約3000)から町丁目・字単位(約30万)へと詳細度が100倍に向上した。民間の地図会社では、建物のデジタル地図も販売され始めている。このようなデジタル地図が量的・質的に整備されたことによって、新たな地域研究の道が拓かれた。
本発表では、地理情報デジタルアーカイブに蓄積されている地理情報を、高度に利活用する研究についても考察する。地理学の一分野に地誌学という分野がある。地誌学は、地域に生起する様々な事象を総合的に記述する学問である。詳細度が大幅に改良されて地理情報を利用した東京23区のデジタル地誌学の試みを紹介することで、地誌学がどのように進展するかをみる。さらに、社会・経済に関わる詳細な地理情報は、エリア・マーケティングの分野にも利用できる事例を紹介する。このように、地理情報デジタルアーカイブの構築は、学術分野のみならず、行政サービスの向上や産業の活性化にも必要な情報基盤の整備につながる。