日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S602
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地理空間情報活用推進基本法と地理学
*碓井 照子
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抄録

1、地理空間情報活用推進基本法と地理空間
 地理空間情報活用推進基本法が、第166回国会で制定(法律六十三)され、2007年5月30日に公布された。この法律の愛称は、NSDI法(National Spatial Data Infrastructure:国土空間データ基盤法)である。米国では, 1992年のクリントン政権発足時に情報スーパーハイウェイ構想として有名な全米情報基盤:NII(National Information Infrastructure:全米情報基盤)行動アジェンダがだされたが、さらに全米科学財団の「国土空間データ基盤整備National Spatial Information Infrastructure(NSDI)に向けて」という国家的戦略としてのNSDIに関する勧告をうけ、クリントン政権は全米インターネット網の整備だけでなく,情報基盤コンテンツとしてのNSDI整備をIT政策の柱にしたのである。この勧告に地理学者が関係していたことは有名である。 1994年、大統領令12906号を公布し、情報技術により米国の政治のあり方を新規に再構築するための情報基盤としてNSDIを官民パートナーシップで整備しようとした。NSDI整備は、GIS(Geographic Information System 地理情報システム)を利用して国民サービスの向上を図ろうとする電子政府政策でもある。
 その背景には、1990年のGIS論争(GISは科学かツールか?)があり、その後、地理情報科学が成立した。1990年代に3次元空間情報技術の目覚しい発展があり、地理空間情報科学とも称されるようになったのである。
 地理空間(Geospace)とは、地球上の地理的空間であり、単なる宇宙空間ではない、そこには、自然と人間との営みがあり、地域、国土、景観、環境などを総称する地球人間圏の空間である。

2、日本学術会議の活動
 20期の学術会議では、第一部(人文社会科学系)、第二部(生命科学系)、第三部(理工学系)の中に30の研究分野別委員会が設置されたが、地理学は、第一部と第三部にまたがるため、第一部では、地域研究委員会に、第3部では、地球惑星科学委員会に所属することになった。第1部では、地域研究委員会の中に人文経済地理地域教育(地理教育を含む)分科会と地域情報分科会が地理系主導の分科会であり、第三部では、地球人間圏分科会とIGU分科会(国際地理学連合)、INQUA分科会(国際第四紀研究連合)の2つの国際対応分科会が設置された。
 地球人間圏とは、地理空間そのものである。地理空間分科会の別名を有してもおかしくはない。地理学としては5つの分科会を主導することになったのである。一般的には、各分野別委員会には、5-7程度の分科会が設置されるから実質的には、地理系分科会は、分野別委員会クラスを構成してもかまわないレベルである。しかし、現在の日本学術会議には、第一部と第三部にまたがる分野別委員会は設置されていない。自然科学と人文社会科学に属する地理学の宿命ともいえるが、今回、地理空間情報活用推進基本法の制定を受け、地理空間に関するアカデミックな分野別委員会は、必要であるともいえる。
 日本学術会議の中に第三部の地球人間圏分科会(地理空間分科会とも言える)と第一部の地域研究委員会の2つの分科会を連携するような自然系と人文社会系の大連合が必要と考えている。そのことにより、日本学術会議の中に、人文社会系と理化学系の癒合した分野別委員会の設置が実現される日が来るかもしれない。
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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