抄録
1.地理空間情報活用推進基本法(NSDI法)登場
法案の検討が始まってから約2年半、国会に提出されてから約1年を経て2007年5月23日に「地理空間情報活用推進基本法」が自民・公明・民主の3党共同提案により成立した。基本法はNSDI法とも呼ばれ(NSDIとはNational Spatial Data Infrastructure:国土空間データ基盤を意味する)、さまざまな情報を位置や場所に関連づけて整理、俯瞰し、多面的に利活用するための共通基盤を構築しようとする点に大きな特徴がある。これまで地理情報システム、いわゆるGISに関しては既にGISアクションプログラムがあり、各府省が連携した政策が進められてきたが、主な対象となっていたのはいわゆる地理情報(=地図情報)であり、いつでもどこでも誰でも容易に位置や場所情報を得ることができる基盤を作る、という意識は希薄であったように思われる。
2.「誰でもいつでもどこでも簡単に位置や場所がわかる」社会インフラ:衛星測位と基盤地図情報
「誰でもいつでもどこでも簡単に位置や場所がわかる」社会インフラとして、共通地図とGazetteer(地名集)が重要なのは言うまでもないが、さらに今後一層重要となるものに衛星測位システムがある。衛星測位には現在、アメリカの運用するGPS(全球測位システム)があり、カーナビから携帯電話まで幅広く利用されているが、今後、欧州連合(EU)のガリレオ(Galileo)、ロシアはグロナス(GLONASS)、中国は北斗(Beidou)を2010年代の半ばを目標に開発・運用する予定があり、我が国も準天頂衛星という日本周辺での利用に特化した測位衛星の開発を進めている。測位衛星の数は現在40機をやや越えるくらいだが、将来120機前後になり衛星測位の利用可能な場所・時間帯が大きく拡大する。このように、衛星測位と共通地図・地名集(基盤地図情報)の組み合わせは、防災やITS(高度道路交通システム)など多くの公共サービスを実現するために共通不可欠な社会インフラ(国土空間データ基盤)であると言えよう。
3.国土空間データ基盤(NSDI)の構築・運用と「地理空間情報活用推進基本法」
道路のように歴史のある社会基盤施設は、税で資金を賄い、国民の信託を受けた行政府が責任を持って建設や管理、運用にあたるという制度が確立している。しかし、国土空間データ基盤についてはそうした制度・仕組みはきわめて不十分である。
国土空間データ基盤のようにデジタル情報を流通・利用する社会の基盤的仕組みを実現するためには、情報を発信・利用する多くの組織が共同し、費用を誰にどれだけ負担してもらうかというメカニズムも含めて、その仕組みをデザインし運用、利用する必要がある。特に国土空間データ基盤の中でも特に共通白地図(基本法でいうところの基盤地図情報)はさまざまな機関が協力することで、現在の地図より遥かに新鮮で高精度なものを実現することが可能である。地図に載っている道路などは完成に合わせて必ず正確な図面が作成されるため、そのデータをそのまま地図に載せることで道路が開通するのと同時に地図上の道路も「開通」させることができる。「地理空間情報活用推進基本法」は今後具体的な制度設計、ファイナンス方式、データの流通に関する仕組みの構築を進めることを国の方針として宣言したものであり、今後の展開が注目される。
(参考文献)
柴崎亮介(2007) 地理空間活用推進基本法と空間情報社会の展望、JACIC情報87号pp.1-13,2007