日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 302
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カリフォルニア州における米価格形成の新たな動き
CRE(California Rice Exchange)を事例として
*鈴木 貴裕
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抄録

1.はじめに
 米国の稲作面積のほとんどが長粒種であり中粒種・短粒種が約3割弱である。米国では、稲作農家が生産した米を米生産者による協同組合組織所有の精米所で精米・保管し民間の精米会社・輸出商社に卸すシステムが主流であった。しかし、カリフォルニア州では、2000年にRGA(Rice Growers Association)の解散に伴い新たな米価格形成の動きが出てきている。従って、新しい価格形成過程の現状を考察することは、米産業における流通構造と価格構造の解明に不可欠であると思われる。そのためネット上で米卸売を行っているCRE(California Rice Exchange)を事例に取り上げ、主にインタビューと統計資料を用いてカリフォルニア州における協同組合組織やCREの現状を明らかにする。
2.カリフォルニア州の協同組合組織と米価格形成過程
 現在、カリフォルニアの協同組合組織には、FRC(Farmer’s Rice Cooperative),CRM(California Rice Marketers)などがあり、民間企業では、American Rice Inc、Pacific International Rice Mill, Connell Rice&Sugar などがある。1988年の時点では、FRCの取扱シェア42%に次いで23%のシェアを誇っていたRGAが2000年に解散した。つまり、RGAの解散までカリフォルニアの米産業は、取扱数量・購入金額ともに多いFRCとRGAによる寡占状態でありFRCとRGAが価格形成に強い影響力を及ぼしてきたと思われる。しかし、RGAの解散とCREの設立により従来の価格形成過程に変化が見られてきた。現在では、全体の流通量のうち3割以上がCREを仲介している。RGAが解散する以前の生産者の契約形態は収穫前にあらかじめ購入する予定の民間の精米会社・輸出商社が買い取り数量と価格を決める収穫前契約が主流であった。この中でRGA組合員は、籾の売り渡し価格からRGAによる精米販売に要した費用を差し引いた残額を支払うプール計算方式で行われ、契約期間も10年以上と長期にわたっており事実上生産者は、買い手を限定されていたと言える。現在は、収穫後に価格を設定する収穫後契約が主流になっている。
3.CREの販売構造と価格形成過程
 CREは、生産者の米を自社のネット上の取引場にて買い手との仲介を行う企業である。CREは、取引量に応じて手数料を取り経営を行っている。現在、1cwt(100ホ゜ント゛)当たり15セントの取引手数料と州の試験場などへ納める検査料と認可料を買い手に請求するシステムである。まず、売り手である生産者は、CREのネットに登録し売り出す米の数量を入力する。その後、数日以内に入札が行われ買い手に引き渡される。このシステムの利点は、買い手にとっては実務の大半をCREが代行してくれる一方で、商品の品質保証、契約条件や価格の保証をしてくれるので安全にかつ迅速に取引を行うことである。売り手にとっては、ネット上で取引量と入札価格が示されまた、入札後、一週間以内に入金されることがこの条件である。従って、いち早く現金を入手することができると同時に取引環境の透明性が、確保される。
4.総括
 現在、CREの取引システム上の取引価格が、カリフォルニア州の米業界での実質的な卸売米価格の指標になりつつある。この事実は、カリフォルニアの米生産者が相場動向をふまえたうえでCREの価格指標を基準にして経営を行いつつあることを示している。従来の価格形成過程が、協同組合組織のプール計算に準拠した曖昧なものであったのでCREの取引システムが生産者・民間精米業者などに信用されつつある。
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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