日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 401
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米国大学のGISカリキュラムにおける地理学と他分野の連携
*河端 瑞貴タパ ラジェッシュ バハドール
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抄録


I はじめに
 地理情報科学のカリキュラム開発が国内外で活発になっている.地理情報科学は,地理学を中心として,情報学,環境学,人文・社会科学など幅広い分野が関わる横断的で汎用性の高い学問領域である.したがって,地理情報科学のカリキュラムを確立するためには地理学と他分野間の連携が必須であるが,わが国では両者間の効果的な連携は必ずしもうまくいっていない.一方,地理情報科学教育で先行する米国では,地理情報科学に関連する学位や修了証書を授与する教育プログラム(以下,GIS修了証明プログラムと記す)を開設している大学が急速に増えており,そのカリキュラムの中に分野間の連携がしばしばみられる.そこで本研究では,わが国での参考とすべく,米国大学のGIS修了証明プログラムのカリキュラムにおける地理学と他分野,特に地理系と工学・情報系との連携状況を調査した.
II 調査方法
 調査対象のGIS修了証明プログラムの選定には,URISA(Urban and Regional Information Systems Association)の2006年9月1日時点におけるGIS Certificate Programを提供する大学リスト(http://urisa.org/career/colleges)を利用した.このリストに掲載されているプログラムの中から,米国の大学であること,カリキュラムの情報がWeb上に公開されていること,およびカリキュラムの科目を提供する学科(Departmentあるいはそれに近い部門)の情報が得られることの3つの条件を満たす大学83校のGIS修了証明プログラム合計114件を選び,これらを調査対象とした.
 次に,各GIS修了証明プログラムについて,カリキュラムの概要,科目,科目が開設されている学科などを調査し,GIS修了証明プログラムのデータベースを作成した.そしてこのデータベースを用いて,GIS修了証明プログラムのカリキュラムにおける地理系学科と他学科,特に地理系学科と工学・情報系学科の連携についての全体的調査を実施した.ここで地理系学科とは学科名に‘Geo’がつく学科とし,工学・情報系学科とは学科名に‘Computer’,‘Engineering’,‘Information’がつくものとしている.GIS(Geographic Information SystemやGeographic Information Science)の名前がつく学科は地理系と工学・情報系学科からともに除いている.
III 調査結果
 GIS修了証明プログラムのカリキュラムを構成する学科の連携状況について調べると,調査対象のGIS修了証明プログラム114件の中で,科目を提供する学科数が1つのカリキュラムは72件(63%),2つは10件(9%),3つは7件(6%),4つ以上は25件(22%)あり,構成学科数の平均は2.6であった.このことから,単一の学科で構成されているカリキュラムが過半数を占めるものの,複数の学科が連携したカリキュラムも約4割と多いことがわかる.特に,構成学科数が4つ以上のカリキュラムが2割以上存在することは注目に値する.
 GIS修了証明プログラム114件のカリキュラムにおける地理系と工学・情報系の比率を調べると,地理系学科の科目が含まれるカリキュラムは70件(61%)と多数を占め,工学・情報系学科の科目が含まれるカリキュラムは34件(30%)と3割であった.地理系学科と他分野の学科が連携したカリキュラムは,GIS修了証明プログラム114件の中で33件(29%)と約3割を占め,地理系学科と工学・情報系学科が連携したカリキュラムは23件(20%)と2割を占めていた.GISカリキュラムにおける学科間連携がほとんどみられないわが国と比較して,極めて高い割合である.地理系学科と工学・情報系を含む他分野の学科が連携している例として,コスムネズ・リバー・カレッジのGIS修了証書プログラムのカリキュラムをみると,人類学(Anthropology),生物学(Biology),電子情報科学(Computer Information Science),環境技術(Environmental Technology),地理学(Geography),地質学(Geology),園芸学(Horticulture),マーケティング(Marketing),物理学(Physics),物理化学と天文学(Physical Science & Astronomy),植物科学(Plant Science),不動産(Real Estate),社会学(Sociology)と12もの学科が連携して合計42科目を提供している.
IV おわりに
 米国大学のGIS修了証明プログラムのカリキュラムでは,地理系と他学科の連携が多くみられ,地理系と工学・情報系学科の連携もしばしばみられる.GISカリキュラムにおける学科間連携がほとんどみられないわが国にとって,こうした米国の事例は参考になる.今後は2007年度のGIS修了証明プログラムについても同様の調査を行い,学科間の連携の在り方についてより詳細な調査を行う予定である.

謝辞
 本研究は科研費(17200052,17202023)および財団法人福武学術文化振興財団の助成を受けたものである.

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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