日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 520
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19世紀(1841-1883年)の中国・北京における気象観測記録
*財城 真寿美Phil JONES塚原 東吾三上 岳彦
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抄録

1.はじめに
 近年,長期気候データベースの構築とその解析を行うプロジェクトがヨーロッパ諸国を中心に行われている.東アジア地域では,気象観測データが最近約100年程度に限られるため,100年以上の気象観測データにもとづく気候変動の解析が困難であった.Zaiki et al.(2006)は,1880年代以前の日本における気象観測記録を補正均質化し,データを公開している.これに引き続き,本研究は19世紀(1841~1883年)の北京で観測された詳細な気象観測記録を補正均質化し,現代のデータと比較対象が可能なデータベースを作成することを目的とし,さらにそのデータを使用して,小氷期末期にあたる時期にどのような気温の変化があったかを検討する.
2.資料・データ
 19世紀の北京における気象観測記録が含まれるオリジナル資料は,1841~1855年にA.T. Kupffer によって出版された“Annuaire magnétique et météorologique du Corps des ingénieurs des mines de Russie”,および “Annales de l’observatorie physique central de Russie” である.さらに1868~1883年に,H. Wildによって出版された“Annalen des physikalischen Central-Observatoriums” で,いずれもイーストアングリア大Climatic Research Unitや英国気象庁,National Oceanic and Atmospheric Administration(NOAA)など世界各地で入手可能である.19世紀の気温の1日の観測回数は,3~24回とばらついている.
 1901年以降の月平均値および,1991~2000年の日平均・時間値はNational Climatic Data Center(NCDC)より入手した.
3.均質化
 1870年以前の気温は,列氏(°R)で観測されているため,摂氏(°C)へ換算した(1°R = 1.25°C).また,時期によって観測回数・時刻が異なるデータ間の均質化を行った.均質化後には,最近50年間の観測データとの比較によって異常値を判別し,データのクオリティチェックを行った.さらに,19世紀から20世紀まで連結させたデータが統計的に連続しているかを検定する均質性テスト(Alexandersson and Moberg, 1997)を行い,有意な不連続がないことを確認した.
4.19世紀の北京における気温の変動
 19世紀の北京の気温データは未だに断片的ではあるが,1840年代は温暖な傾向にあり,1870・1880年代には寒冷化している傾向がある(図1).すでにデータベース化されている19世紀の22年間の上海における年平均気温との相関は,r = 0.45であった.またZaiki et al.(2006)による同時期の西日本の平均気温と比較すると,1840年代の北京の温暖傾向は,西日本の温暖傾向よりもやや早く,1870・1880年代の寒冷傾向は同様であることが認められた.

参考文献
Alexandersson, H. and Moberg A. 1997. Homogenization of Swedish temperature data. Part I: Homogeneity for linear trends. International Journal of Climatology 17: 25-34.
Zaiki, M., Können G. P., Tsukahara, T., Jones P. D., Mikami, T., and Matsumoto, K. 2006. Recovery of nineteenth-century Tokyo/Osaka meteorological data in Japan. International Journal of Climatology 26:399-423.
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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