抄録
I.はじめに
埼玉県熊谷市街地中心部に立地するデパート(地上高約32m)と郊外に立地する大学学生寮(地上高約47m)の屋上部とそれぞれの地上部付近、合計4箇所に自然通風式自記温湿度計を接置して、7月22日~9月29日の間、1分間隔の連続観測を実施した。
II.快晴夜の観測事例(9月20日~21日夜)
期間中唯一18時から翌朝6時まで快晴が持続した9月20日~21日の結果を典型的な快晴夜の事例として記載する。日没17:40、日出5:33であり、4箇所の観測値はいずれも日最高気温以降翌日の日出までほぼ単調に減少した。日中3m/sを越えた南風は徐々に減衰し21時以降反時計回りに回転し00時には一旦静穏なった後日出までは1m/s以下の西風が吹走した。22時以降、郊外地上部だけ著しく降温して、郊外に強い接地逆転層が形成された。接地逆転の強化に呼応してヒートアイランド強度が強化され2℃を上回った。都心はほぼ乾燥断熱減率となり、屋上面気温ではクールアイランドが形成・持続された。この事実は、夜間郊外に形成された接地逆転を伴う冷気塊が粗度の大きい市街地に移流して攪拌された結果都市混合層が形成され、地表面にヒートアイランド、屋上面にクールアイランドが形成されたことを示唆している。
III.郊外接地逆転と夜間ヒートアイランドの関係
観測期間中最も遅い日没が7月22日の18:52であり最も早い日出も同日の04:46であるので、19:00~04:00の時間帯で、非降水で、かつ、都心気温減率が1.5~0.5℃/100mで都市混合層が存在していると予測される毎正時ごとに、郊外逆転強度αおよび気象台風速vと都市ヒートアイランド強度δTu-rの関係を統計的に調査した。その結果、ヒートアイランド強度δTu-rを風速vの関数とせずに逆転強度αのみの関数とした方が高い決定係数R2が得られ、00時、01時、02時に対して、それぞれ、
δTu-r=0.8405α+0.5745 R2=0.9094
δTu-r=0.9304α+0.5729 R2=0.8734
δTu-r=0.8423α+0.4954 R2=0.8686
の関係が得られた。クロスオーバー高度がhの場合、
δTu-r=(h/100)α+0.0976h
となることが期待されるので、クロスオーバ-高度hが風速vに関わらず80m程度でほぼ一定であることが示唆される。都市混合層厚をH、市街地の相対的過剰熱収支フラックス密度をF、フェッチをLとすると、都市混合層熱収支が成立するためには、
FL/v=(1/2)ρCp(α/100+0.00976)H(2h-H)
であることが要求される。ここで、ρ:密度、Cp:定圧比熱である。相対的過剰熱収支フラックス密度F=0の場合には、上式より、
2h-H=0 即ち H=2h
が成り立ち、都市混合層厚Hは約160m程度と見込まれる。しかし、実際にはF>0なので、Hとhの関係は、2h-H>0の範囲内で、もっと複雑でなくてはならず、風速依存性も予想される。今回ヒートアイランド強度δTu-rに顕著な風速依存性が認められなかったのは、郊外逆転強度と気象台風速の間の負の相関に起因する二重共線性が影響を与えている可能性もあり、今後、更なる検討が必要である。