日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 609
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ボーリングコア解析に基づく熱田層および沖積層の堆積環境の比較
*岩崎 英二郎須貝 俊彦粟田 泰夫杉山 雄一
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抄録

I.はじめに
 地球温暖化による沿岸環境への影響を予測するために,過去に起きた寒冷期から温暖期への移行過程の理解が要請されている.海洋酸素同位体ステージ(MIS)2-1とMIS 6-5は,酸素同位体比曲線に類似性が認められるため,堆積環境も類似していると考えられるが,両時代の堆積環境を比較した研究報告は少ない.そこで本研究では,濃尾平野南西部を対象として,MIS 6以降の堆積環境・堆積システムの復元を行い,MIS 6-5に相当する堆積層とMIS 2-1に相当する堆積層とを比較する.
II.調査地域と対象コア
 濃尾平野は,西縁を画する養老断層によって西へ傾く傾動盆地であり,その傾動速度は約0.86×10-4/千年とされている(須貝ほか,1999 a).MIS 6以降における濃尾平野の地下層序については,桑原(1968)・古川(1972)などによって,下位から第二礫層・熱田層・第一礫層・濃尾層・南陽層とされている.また,濃尾平野は約90万年間以上約1m/kyrの大きな速度で沈降を続けているため堆積空間を付加し続け,本流河川の土砂供給が活発であるためグローバルな海水準を記録し得る(須貝ほか,1999 b).
 本研究に用いたコアは,大山田コア(以下OYDコアと記す)と埋縄コア(以下UZNコアと記す)の2本である. 1996年に地質調査所(現活断層研究センター)によって掘削され,いずれも桑名・養老断層の下盤側,木曽川デルタ下流域に位置する(Fig.1).OYDコアは,現在の海岸付近である三重県桑名市播磨町の,標高1.53m地点から深度115.0mまで掘削された.UZNコアは,三重県三重郡朝日町埋縄の標高10.49mの地点から深度94.0mまで掘削された.分析内容は,ボーリングコアの観察・記載,既存の14C年代値による時代決定である.
III.結果
 2本のコアを,岩相に基づいて,10のユニットに区分した(Fig.2).G2・G1は開折谷を埋める河川性の礫層,AB・NBは河川流路と氾濫原の堆積物である主に砂礫層,ALB ・NABは貝化石を含む内湾に堆積した主に泥層,ALM・NAM はデルタフロントの前進によって堆積した主に砂層, AU は砂礫層を主体とし,シルト層を挟む陸成層,NATは氾濫原に堆積した砂礫層である.またこれらのユニットは,G2が第二礫層,AB・ALB・ALM・AUが熱田層,G1が第一礫層,NBが濃尾層,NAB・NAM・NATが南陽層に対比される. UZNコアではNBが欠けている.
IV.考察
 観察記載の岩相に基づき, 2本のコアは1つのシーケンス境界と,2つのラビーンメント面を認定した.また,一部のユニットを除いて,網状河川システム・内湾デルタシステムの2種類に分けられる(Fig.2).UZNコアのALBが一様な細粒堆積物から構成されるのに対し,NABは礫や粗砂を含む極細粒砂から構成される. MIS6-5の内湾の拡大範囲が,MIS2-1の拡大範囲よりも大きかった可能性を示唆する.AUに関して,さらにその堆積環境・システムを詳細に解析する必要がある.
文献
須貝・杉山(1999a) 深層ボーリング(GS-NAB-1)と大深度地震探査に基づく濃尾傾動盆地の沈降・傾動速度の評価,地調速報,EQ/99/3,77-87. 桑原(1968)濃尾盆地と傾動地塊運動,第四紀研究,7,235-247. 古川(1972)濃尾平野の沖積層,地質学論集,7,39-59. 須貝・杉山・水野(1999 b)深度600mボーリング(GS-NAB-1)の分析に基づく過去90万年間の濃尾平野の地下層序,地調速報,EQ/99/3,69-76.
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