抄録
1. はじめに
中国内モンゴル自治区中部の渾善达克(フンシャンダーガ)沙地(41.25°N-44.5°N,112.25°E-117.5°E)は,乾燥,半乾燥地域と半湿潤地域との境界地域に位置する。近年沙漠化の進展が著しいと言われ, 首都北京に近く砂塵暴の発生源として注目を集め、様々な研究が行われている。衛星データを用いて渾善达克沙地地域の沙漠化について調べた先行研究は烏欄図雅(2001),武(2003),何(2003)などがあるが,2ないし3つの限られた年代の比較で沙漠化の進展を結論付けており,植生量の変化の実態をとらえてはいない。一方2001年から実施された「禁牧」,「退耕還林還草」,「京津風沙源治理工程」など沙漠化・沙塵暴防止の取り組みにより、一部では植生量の回復が指摘されている(金ほか,2006;周,2004)。
2. 研究方法及びデータ
植生量変化の実態を捉える方法の1つとして正規化植生指数(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)が広く使用されている。本研究では,NDVIデータとしてNOAA/AVHRRの1981年から2006年(解像度8km)までのデータとMODIS/Terraの2001年から2006年(解像度500m)までのデータを用いて,植生量の時空間的経年変化を調べた。また土地類型毎に植生量の経年変化を調べるため,2000年Landsat TM(解像度30m)データを基に内蒙古師範大学が作成した内モンゴル土地利用図を使用した。植生量に影響を及ぼす気象要素としては,対象地域における11観測点の1981年から2006年までの月別気温,月別降水量及び旬別降水量データを使用した。
3. 結果
(1)対象地域(渾善达克沙地)全体のNDVIの変化傾向をみると,1980年代から90年代にかけて増加し,2000-2001年に減少したが,そのあとやや回復し,期間全体としての減少傾向は認められない。
(2)NDVIの変化傾向を土地利用別にみると,集落および都市において減少傾向を示すが,他の土地利用においては減少していない。
(3)NDVIは降水量の変動と高い相関を示し,乾燥地域では生育期間の降水量が植生に重要であると考えられる。また土地利用別にみると,草地と沙地(未利用地)において相関が高く,地域的には乾燥の著しい西部において相関が高いことが分かった。
(4)近年において同程度に顕著な少雨年(1989,2001,2005年)のNDVIを比較すると,2001年で最も低下が著しく,2005年には低下が少ないことが判った。この傾向は北東部の錫林浩特市で顕著であり,現地の聴き取り調査から,2000-2001年にかけては旱魃にイナゴ害発生が加わり、頻繁な砂嵐の発生などにより植生が退化したこと2002-2004年にかけては降水量の増加、禁牧政策の効果により植生が回復したことが分かった。