日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P804
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2000年代の水産物購入構成にみられる都市間の差に関する予察
*林 紀代美
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抄録
本研究は,最終的には2001~2010年期について,Hayashi(2003)で着目した項目,利用した手法に対応する形で水産物購入に関する地域性を析出し,過去の調査期の傾向との継続性や変化について明らかにすることを目的とする.本報告,2001~2008年の統計から,その予察を行ったものである.具体的には,県庁所在都市47地点の1世帯当たり年間の水産物購入における内容構成に注目し,「平均化」の進行状況と内容構成が類似する地域の分布,各品目が重用される地域について検証する.
Hayashi(2003)では,1963~2000年における水産物購入について考察した.その結果,水産物の購入においても,全国的に似たような購入傾向に向かう「平均化」の進展が確認され,購入の構成の都市間のばらつきは年を経るにつれて縮小した.一方で,構成の類似する地域の広がりや,各地域の食卓で重要度が高い品目,各品目の購入割合が高い地域は,長期的にもその傾向を継承されていた.この点を考慮すると,地域の人々が地域の食文化や水産物に対して一定の評価や支持を継続している側面も推測される.水産物の供給者が地域の人々(最終消費者)の期待やニーズに応えた地域水産物を提供することにより,流通にともなうコストや環境負荷を抑えて地域内での堅調な水産物流通を実現することは,供給側,需要側双方にとってメリットがある.また,地域外への出荷や市場開拓に関しても,受け入れ地域の食文化や好まれる魚種の性質を踏まえた商品の開発,販売の工夫を考えることで効率のよい活動を実現できる可能性がある.
2000年代以降の食品流通においては,「食の安心・安全」や地域ブランド化された食品,地産地消などに対して,食料の供給者や最終消費者を含む需要者,関係機関が関心を高める動きがみられた.マスコミなどによる情報提示や食に関わるイベントの開催,食育の推進,小売店などでの地場産製品の強調,環境負荷を低減させる生産・流通活動など,地域の食文化や食材が注目され,利用される機会も多く創出されてきた(例えば,林,2007).この状況下で,Hayashi(2003)で明らかにされた状況と2000年以降のそれとを比較した場合,「平均化」の進展や,購入傾向の類似地域の広がり,地域ごとの重要品目や各品目を重用する地域には,変化が生じているだろうか.資料上の制約から, “地産地消率”の解明などは困難であるが,購入内容の構成割合(購入されるアイテムの組合せ,バラエティー)とその変化に注目して,今日の水産物購入における地域特徴を検証する.それら結果は,地域水産物の流通や消費拡大,地域の資源や食文化の活用・継承を考えるための有益な示唆を含む.
予察の結果,水産物購入における平均化は,1990年代までに一定程度進行しているため,2000年代のその程度は僅かであったものの,更なる都市間の差異の縮小が確認された.購入構成の観点からみると,地産地消や地域の食文化への注目が高まった2000年代にあっても,“地域らしさ”の回復には向かわなかったことになる.2000年代の購入構成が類似する地域のまとまりは,6区分に集約された.1990年代の区分から若干の都市で移動がみられるものの,類似地域のひろがりの傾向はほぼ継承されている.地域ごとの重要品目や各品目を重視する地域についても,傾向は継承されている.考察結果の詳細は,当日の報告に譲る.
Hayashi,K 2003:The difference between cities and the change for the constitution proportion of fisheries commodities purchase.地域漁業研究(Journal of Regional Fisheries) 44-1,69-81.
林紀代美2007a:水産業・水産物を活用した食に関わる学校教育活動の可能性と課題-小浜市立田烏小学校の事例から-.地域漁業研究47-2・3,265-281.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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