日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P816
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韓国国家産業団地にける大気-水文環境(1)
*朴 恵淑宮岡 邦任竹中 千里
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抄録

1. はじめに
韓国国家産業団地であるウルサン工業団地及びヨス(ヨチョン)工業団地は、1960年代のはじめに造成がはじまり、石油化学、自動車及び造船工業を中心とする重化学工業団地である。ヨス(ヨチョン)工業団地は、非鉄金属工業、精油、石油化学、肥料、化学パルプ工業が中心となる、韓国最大工業団地である。これらの地域は、かつて四日市コンビナート地域において発生した大気汚染、水質汚濁、悪臭などによる被害が顕著であり、地域住民の集団移住が政策的に行われるほど、ヨス(ヨチョン)工業団地での喘息、皮膚病などの健康被害が発生している。しかし、大気汚染や水質汚濁の基礎的データはあるものの、国家産業団地内の大気汚染及び水質汚濁、沿岸域の水文状況を把握できる詳細なデータは不十分であるため、その実態が明確に把握されていない。本研究の目的は、まず、韓国国家産業団地における大気—水文環境の特性を把握する。次に、韓国国家産業団地周辺の沿岸域の水文環境の調査を行い、四日市コンビナート地域で行った大気—水文環境の研究成果と比較考察を行う。最後に、両国のコンビナート(国家産業団地)の大気—水文環境の特性に基づく環境復元モデルを構築する。
 本発表では、これまでに行われた地域住民や関係者へのインタービュー調査、ヨス(ヨチョン)工業団地内の降水量調査、水質分析、沿岸域の水文調査による結果の一部を報告する。
2. 調査概要及び結果
(1) 産業団地周辺の住民へのインタービュー調査
ヨス(ヨチョン)工業団地周辺の住民へのインタービーを行った。工業団地の中興洞は、清浄海域に面した豊な漁場で養殖業が盛んな地域であったが、工業団地周辺造成に伴い、ベンゼン、カドミウム、鉛、亜鉛などで汚染された地下水により癌、皮膚病等に苦しんでいる。しかし、因果関係を立証することが難しいことから対策が行われていない。四日市公害で行われたように、疫学的側面での解明を行う必要がある。
(2)工業団地内外の大気—水文環境調査
 工業団地内外の2地点に降水量計を設置し、降水量の変動(時系列)、降水の採集・分析を2009年4月から行っている。本研究によって、工業団地内での企業の施設において、大気—水文環境調査が本格的に行われるようになった。一方、工業団地から離れた全南大学ヨスキャンパスにおいて降水量計を設置し、同様な調査が行われることから、工業団地内外での大気—水文環境調査がモニタリングできるようになり、分析を行っている。
(3)工業団地沿岸域での水文環境調査
ヨスにおける水文環境調査については,団地内における民家井戸での水位・水質調査の他に,陸域-海域の相互作用を解明するために,海岸から沖合にかけて,電気比抵抗探査による海底地下水湧出地点を把握するとともに,湧出地点における,湧出量や栄養塩湧出量について解明する方向で調査を行っている。
本研究は、科学研究費補助金基盤B(No.19310154、研究代表者:朴 恵淑)の補助を受けた。

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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