抄録
1. はじめに
冬季東アジアモンスーンは、わが国の日本海側地域に多量の降雪をもたらし、人間活動に及ぼす影響が極めて大きい。長期的な気候変動に伴って冬季モンスーンの強さや自然季節としての冬の長さがどのように変化するか解明することは、気候学の重要な課題の1つである。
Inoue and Matsumoto(2003)では、日本海側地域と太平洋側地域での日照率の差にもとづいて自然季節区分を行った結果、近年、温暖化が進みつつあるにもかかわらず、冬の期間の長さが長期化していることを指摘している。しかし、対象期間は1950年代以降であり、20世紀前半の状況については触れられていない。本研究では、1901年以降継続的に得られる気象官署における日降水量データを用いることで、日本海側と太平洋側での日々の天候のコントラストに着目して自然季節としての冬の期間を定義して、20世紀前半以降に冬の期間の長さがどのように変化してきたのかを解明することを目的としている。
2. データと方法
全国48地点の気象官署における1901/1902年-2008/2009年の10月から4月の日降水量データを用いた。各気象官署において日降水量1mm以上の日を降水日とし、降水の有無にもとづいて日々の天候分布図を作成した。その上で、日本海側に位置する気象官署7地点の内の隣接4地点以上で日降水量1mm以上であり、かつ太平洋側に位置する13地点全てで日降水量1mm未満の日を「冬型天候分布」と定義した。次に、各年について、第56半旬(10月3日-10月7日)から第24半旬(4月26日-4月30日)までの各半旬毎に「冬型天候分布」の出現割合を求めた。求めた出現割合に5年×5半旬の移動平均を施した上で、各年について「冬型天候分布」出現割合が20%以上の期間を「冬季」と定義し、「冬季」の開始半旬と終了半旬、および「冬季」の長さにみられる長期変動の特徴について考察した。
3. 結果と考察
図1は、「冬型天候分布」の出現割合から定義した冬季の開始半旬と終了半旬の長期変動を表している。冬季開始半旬と終了半旬および、冬季の長さの長期的な変化傾向を把握するためにMann-Kendall 検定を適用した結果、冬季の長さは1903/1904年-2006/2007年の間で有意に短期化する傾向(P<0.01)があることが確認された。また、近年(1980年代以降)、冬季の開始の遅れが顕著になっていることが判明した。これらの結果は1950年代以降について冬季の長期化を指摘したInoue and Matsumoto(2003)とは異なるが、この相違は、使用しているデータの違い(日照率と日降水量)や季節区分の定義の違いなどによるのではないかと考えられる。
