日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P917
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副次断層の調査に基づく深谷断層の活動性評価
*中村 洋介田村 俊和菊地 隆男古田 智弘
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抄録
江南面(大里面)は寄居よりも下流の荒川の右岸に細長く分布する扇状地性の河成段丘面である.従来の研究では,新井ほか(2002)が江南面はその東部の江南町・熊谷市境界付近において江南I面~江南III面の3面に細分化できることを指摘している.また中村ほか(2005)は,立正大学ユニデンス近傍の江南_I_面を覆う土壌層の中からATやK-Tzを含む複数の火山灰層を検出し,江南I面の離水時期をK-Tz降下以降Aso-4降下直前,すなわち約90,000年前であると推定している.
ところで,立正大学エネルギーセンターの建設工事に伴って,新井ほか(2002)における江南II面構成層(ならびに被覆土壌層)に相当する露頭が現れた.当初,筆者らは江南I面と江南II面の間に存在する緩やかな崖は河川の浸食によって形成された浸食崖であり,本露頭においては江南I面構成層(ならびに被覆土壌層)よりも新しい層相(ならびに新規の被覆土壌のみ)が確認できると予想して観察に臨んだ.
しかしながら,実際に観察して認められた地層の層相は,より上位に位置する江南I面構成層と酷似するものであった.特に,地層の中央部の灰白色のシルト層中に,肉眼で確認できる黄緑色の軽石層(著者の1人の菊地が発見)を確認した.この軽石層は層相ならび確認された層準より御岳第1火山灰層であると推定されたが,仮にこの軽石層が御岳第1火山灰層であるとすると,江南I面と江南II面の間の崖は浸食崖ではなく変動崖であると解釈される.本研究では,この崖が本当に変動崖であるかを検証するために,軽石層の鉱物分析ならびに屈折率測定,空中写真判読ならびに地形断面測量を実施した.
今回見つかった変位地形は,深谷断層の副次的な断層である江南断層のさらに副次的な断層であると考えられる.水野ほか(2002)や文部科学省(2005)を参考にすると,江南断層の地震一回当たりの変位量は70cm,約3万年(もしくはさらに古い)に形成されたローム層の変位量が2.5mである.今回,立正大学熊谷校地内で発見された変位地形の約10万年間の変位量は約3mであり,江南断層における地震1回あたりの変位量70cmもしくはそれ以下の変位量を想定すると,立正大学熊校地内で発見された変位地形は約20,000年に1回程度の割合で断層変位を繰り返してきた計算となる(地震そのものは,深谷断層の活動に伴うもの).ただし,江南断層の最新活動時期は約6,200年前以後、約2,500年前以前である可能性が高いことから(文部科学省,2005),少なくてもこれから数100年の間は断層が動く可能性は低いと考えられる.
 最後に,今回のような変位地形を新たに認定できたことは,日本はもとより世界中においても変動崖が浸食崖と誤認されているケース,もしくはその逆(変動崖→浸食崖)の事例が少なからずあるであろうことを示唆できたのが最大の意義であるといえる.地表に現れている崖の判断を誤ると地形・地質構造発達史が大きく異なってくるので注意が必要である.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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