日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 215
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アンサンブル局地気候シミュレーション手法を用いた降水に対する都市の影響評価
*日下 博幸縄田 恵子木村 富士男宮 由可子秋本 祐子
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抄録
1. はじめに
近年,ヒートアイランドと地球温暖化,猛暑,局地豪雨との関係が社会的な関心を集めている.これに呼応して,現在,これらの視点に立ったヒートアイランド研究が活発に行われている.都市で発生する対流性降水に関する数値モデル研究の多くは,ある降水事例に対して都市あり実験と都市なし実験を行い,その差から都市が降水におよぼすインパクトを論じたものが多い.前回大会では,東京で発達した降水事例に対して同様な感度実験を行い,都市の存在が降水量を増加させるという結果を得ることもあるが,計算条件によっては逆の結果が得られることもあるということを示した.同時に,これはシミュレーション結果にカオス性が明瞭に現れたためであり,従来の決定論的な感度実験を行うことにより局地豪雨に対する都市の効果を評価する際は細心の注意を払う必要があることを述べた.
本大会では,前回大会で紹介した局地気候シミュレーション手法に加えて,アンサンブル予報的な考えを導入した結果を紹介する.
2. 都市気候シミュレーションのアンサンブル感度実験
 前述した問題を克服するための手法として,気候実験がある.気候として見ることにより,数値シミュレーションの初期値問題的な性質を弱め境界値問題の性質を強めることができ,都市という境界条件の違いが検出しやすくなると思われる.われわれのグループでは, 2001~2008年の8月を対象に関東地方の気候に対する都市の有無の感度実験を行った.その結果,都市効果により都市域で降水量が明瞭に増加するという興味深い結果を得た(図1).しかしながら,都市以外の場所でも降水量の増加や減少が顕著に認められる場所がいくつかあるため,この都市域で認められた降水量変化が都市によるものなのか,単なるカオスの影響なのか判断することは難しい.そこで,本研究では,境界値として利用している客観解析データを変えることにより,この不確実性を減らす努力を行っている.図2aは境界値を気象庁の領域客観解析データ(RANAL)から気象庁・(財)電力中央研究所の長期再解析データ(JRA25)に変更した場合,図2bは米国環境予測センターの最終解析データ(FNL)を用いた場合の結果である.都市が降水量を増加させる,あるいは減少させる地域は数多くあるが,境界値としてどのデータを用いた場合でも,東京付近では降水量が増加していることは興味深い.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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