日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S203
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沖縄の自然保護とジオパーク
*中井 達郎
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抄録
 沖縄では、今、世界自然遺産登録に向かっての動きが盛んになりつつある。世界遺産条約は、本来「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」であるが、保護すべき対象である自然が、今も損なわれつつあるのが現状である。そんな中で、「ジオパーク」が果たす役割への期待を示したい。  自然保護の世界では、保護の対象として、勢い生物が主体として取り上げられる。自然保護にかかわる研究者や市民の多くも生物に関心を持つ人々が多い。その際生物種だけではなく生態系を対象とする視点の重要性は訴えられている。しかし、生態系を構成する「生物群集系」と「無機環境系」のうち、後者はしばしば十分な議論がなされないことが多い。このような認識は、広く社会一般の認識であるように感じる。それは、日本での自然保護の課題のひとつだと考える。ジオパークという発想とその展開は、この課題をクリアするきっかけとなる可能性がある。  沖縄を代表する自然のひとつとしてサンゴ礁がある。近年、サンゴ礁に対する関心が高まり、その保護・保全の必要性も、広く共有されるようになってきている。しかし、そこにも前述の生物中心の一面的な理解が広がっている。例えば、マスコミ等でも「サンゴ礁保全=サンゴ移植」という風潮が広まっている。そもそもサンゴ礁≠造礁サンゴである。サンゴ礁は、造礁サンゴをはじめとした造礁生物が作り上げた地形・地質構造である。サンゴ礁生態系は、サンゴ礁上での地形・堆積物-波・流れ-生物を中心とした関係性によって成立している。サンゴ礁保全のためには生物的自然への理解だけではなく地学的自然への関心と理解が不可欠なのである。  また、沖縄の島々には広くサンゴ礁起源の琉球石灰岩が分布している。すなわちサンゴ礁は海の自然だけではなく、陸上の自然も形作ってきた。鍾乳洞や湧水点などのカルスト地形は、沖縄の生物群集の生息環境として極めて重要な意味を持っている。それを維持するためには、地下水の維持が不可欠である。非石灰岩地帯では河川・渓流の保護が必要である。過去の地質学的プロセスで作られた構造を保護することと同時に、現在作用している流れや波といった営力を維持することも必要である。さらには、陸水の作用は、海の自然にも影響する。陸域と海域が一体となった保護が必要である。沖縄は小さな島嶼の集まりである。海と陸との関わりを理解する上で最適な場所とも言える。具体的にジオパークを設定する際には、これらのことを念頭において地域設定を行うべきだと考える。場所によっては、島ひとつを全島、周辺海域を含めてジオパークとするような発想が必要だろう。  以上、述べたことは空間スケール・時間スケールの問題でもある。これまでの日本の自然保護では生物学的なスケールでの議論が主流であった。ジオパークを展開することによって、地学的スケールの重要性への認識が深まることを期待する。また、沖縄では、伝統的な人と自然との関わりが、現在も続いている事象が多い。このことも沖縄でのジオパークの注目点になることを付け加えたい。
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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