抄録
1.はじめに
おきなわワールド(玉泉洞)は、沖縄の本土復帰前に観光鍾乳洞からスタートした、県内初の有料観光施設である。100%地元沖縄資本の民間企業であり、沖縄県から博物館相当施設に指定されている。2008年8月、河川環境の問題から閉鎖していた「ガンガラーの谷」も公開され、完全予約制のガイドツアーが実施されている。
2.沖縄観光の現状
現在の沖縄県の主力産業は観光業であり、県内入域客数は年々増加しているが、観光収入が比例して伸びていないことが課題となっている。
沖縄県の観光施策「平成21年度ビジットおきなわ計画」の重点項目の1つとして「ニューツーリズムの推進」が掲げられている。ここでは、「沖縄の自然や独自の歴史、文化などに、より深く触れることができる良質なエコツーリズムメニューを県内外へ発信する」とされている。
3.ガンガラーの谷について
2008年に公開された「ガンガラーの谷」は、隆起サンゴの石灰岩地帯に位置している。ここには鍾乳洞が崩壊した谷が形成されており、ガイドツアー専用エリアの森の中を歩くルートが整備されている。
ツアーでは、まずスタート地点の洞窟内で地質・地形の解説を行う。その後、崖から15mもの根を垂らす巨大ガジュマルをはじめとする貴重な動植物や、民間信仰の場などを観察しながら、森の中を歩く。ゴール地点の洞窟では旧石器時代の居住跡を発掘する考古学的調査が行われており(発掘については藤田・山崎の発表に委ねる)、最新の発掘状況や研究成果を基に、「港川人」と関連付けたホモ・サピエンスの旅の話で締めくくる。
公開に際しては、様々な分野の学術的な知識・価値をベースに、一般観光客の興味を引き出すことを心がけた。特に、ツアーを商品として成り立たせることと、自然環境の保全を両立させるべく、「持続的な利用」の観点から計画を進めた。
解説内容については「目に見えるものだけでなく、地形のダイナミックな変化や古代人の営みなど、目に見えないはるか昔の世界をイメージしてほしい」という視点を重視している。また、解説にあたっては、話し方やコミュニケーション能力に細心の注意を払っている。
現在は、この場所に関連する幅広い分野の内容を1つのストーリーにまとめたツアーを行っているが、今後は各分野の連携性を保ちながら各分野を掘り下げる、より深い内容のツアーも構築していきたいと考えている。
4.ジオパークとしての可能性
自然環境と古代人の生活をテーマとする「ガンガラーの谷」ツアーのスタイルは、ジオツアーの概念と重なる部分が多い。また「ガンガラーの谷」が位置する沖縄島南部雄樋川河口付近には、観光鍾乳洞として世界有数の入場者数を誇る「玉泉洞」や、東アジア最高の保存状態とされる旧石器時代の人骨化石「港川人」の発見場所などがある。この一帯は沖縄島でもとりわけ隆起が活発な地域で、海岸に点在する石灰岩ブロックがロッククライミングの名所にもなっている。今後は、これらのサイトを結びつけ、地元民間企業・地元行政・地元研究者とも連携を図りながら、本エリアのジオパークとしての可能性を探っていきたい。