日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S303
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人類学・考古学からみた沖縄のジオツーリズムの可能性
*藤田 祐樹山崎 真治
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キーワード: 沖縄, 化石, 遺跡, 地形
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抄録
はじめに
 沖縄県立博物館・美術館は、複数の更新世人類化石を産する沖縄の地理的特性に基づき、新たな人類化石発見を目指した野外調査を実施している。この調査を通じて得た知見から、沖縄県におけるジオツーリズムの可能性を考えてみたい。

沖縄の地質と化石
 沖縄県は、本島、離島ともに石灰岩が発達している。カルシウム分豊富なその土壌は化石の保存に適しており、県内各地に更新世動物化石の産出地点が100以上知られている。こうした化石を探すには、その堆積プロセスを考える必要がある。
 化石の堆積プロセスには、地表面に存在した動物やヒトの遺体が、流水など自然の作用によって集められたり、ヒトや肉食動物が食物残滓として一か所に集めたり、葬送として遺体を埋める行為などが考えられる。自然作用で集積する場合には、集水地形や裂罅、鍾乳洞などの存在が化石を探す鍵になるし、ヒトや動物の活動がかかわる場合には、それぞれの好む地理的環境が重要となる。さらに、埋没した化石を探すには、崖地や露頭など、それらを発見しやすい地形的条件が必要になる。

遺跡の立地条件
 また、化石のみでなく先史時代の人々の住居跡や生活場所を探求する場合にも地理的条件を無視することはできない。先史時代人は、地理的環境の変化や生活スタイルにあわせて居住空間を選択していたはずだからである。その一例として、私たちの調査している武芸洞を紹介する。
 武芸洞は、沖縄県南城市の観光地「ガンガラーの谷」にあり、縄文時代前期(8,000年前ごろ)から後晩期(3,000年前ごろ)にかけて断続的に生活や葬送の場所として利用されたことが、これまでの調査でわかった。武芸洞は、雄樋川の流れによって形成された鍾乳洞の一部であった。その天井が一部崩落して光や風が入るようになり、さらに川の流れが変化して洞内が乾燥したことによって生活可能な環境となったことが調査の結果から明らかになった。洞穴形成という地理的変化が、先史時代人に生活場所をもたらした好例といえよう。

地理景観の変化と私たちの生活
 このように、化石の探求を通して、化石を多産する沖縄の地質的特性を改めて認識することができる。また、化石の集積プロセスや遺跡の立地などを考慮する過程から、地形が長大な時間軸のなかでダイナミックに変化することや、それに応じて私たちの生活スタイルや生活環境が変容していたことを思い知らされる。
 「化石探し」や「太古の沖縄」、「自分たちの祖先の探求」、「昔の人々の生活」など人類学、考古学的なテーマは、子供から大人まで、多くの方々の興味をひきやすい。こうした人類学、考古学的なテーマを導入として、長大な時間にわたる地理・地形の変化が、自然環境の変化や動物や人々の生活へも影響を与えることを解説すると、地理や地形にこれまで興味を持っていなかった人々へもアピールできるジオツーリズムを展開できるのではないだろうか。
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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