日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S403
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韓国のワカメ漁場利用慣行の多様性
*李 善愛
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抄録

 本研究では、韓国のワカメ漁場利用慣行の地域的広がりを比較分析してその特徴を明らかにする。
 漁場は捕獲、採取される漁獲物や道具によってさまざまな種類に分類される。こうした漁場の種類の中には古い時代から行われてきたものが多く、もっとも古いのは竹防簾という定置網漁場と藿岩というワカメの天然漁場である。
 竹防簾は移動する魚を捕獲対象とする漁具漁場で個人が私有し、売買することができる。一方、藿岩はワカメ、イワノリのような海藻類やアワビ、サザエのような貝類などの定着性動植物を捕獲対象とする漁場で、村の共同体が漁場使用権を共有し、ほとんど売買することができない。
ところで、竹防簾漁場は現在韓国の南海岸の南海という特定地域を中心に分布しているが、藿岩は岩礁性海岸の地域に広く分布し、さまざまな形態の利用慣行がある。このような歴史性と地域性をもつ藿岩漁場のさまざまな利用慣行に焦点をあて、人間と自然環境とのかかわりの現在を考えたい。
 韓国で用いられる海藻の種類や量は多いが、その中で著しく多いのはワカメである。ワカメは日常の食料としてよく利用される。一方、非日常のお歳暮や中元のような贈答品、産婦の食事や一般人の誕生日の食事にも必ず用いられている。また、近代医学が発達した今日においてもワカメはお産の神への供え物としても欠かせない。
 さらに、藿岩漁場で採れる天然ワカメは、量産性の高い養殖ワカメとは対照的に、珍奇なものとして、天然のものは健康によいという認識のもとで高級地域ブランド品になっているものもある。このようなワカメの社会・文化的利用と位置づけが経済的価値を高め、それと相応した形で天然のワカメが採れるワカメ漁場の利用形態は村ごとに異なり、しかも複雑な形で展開していると思われる。
 以上からみると、ワカメ漁場の韓国の現在におけるワカメ漁場利用形態は以下の3つの特徴にまとめることができる。
 まずは、ワカメ漁場の使用権は大きく共有型と私有型に分けられるが、共有型が多数を占めている点である。
 次は、ワカメ漁場の割り当て方法は、くじ引きと輪番に分類することができる。両方とも漁場を一定数の区画に分けて割り当てしているが、くじ引きで漁場を割り当てる場合、毎年のワカメ生産量を参考しながら区画に配置する人数を調節する。輪番の場合は、班などの共同体構成員グループが決まった漁場の区画を年別に一定方向で順番に利用している。両者は、漁場の割り当て方法においては異なるが、共同体構成員間の漁場利用機会の平等性と公平性を図っている点は似ている。
 その次は、ワカメの生産・分配形態は共同と個人に分かれる。こうした生産・分配形態を決める大きな要素は、1人当たりの漁場利用面積の大きさ、ワカメの販売先が確保できる消費地の有無やそれを決める村の立地条件などである。
 しかし、ワカメ供給先の有無、共同体構成員の年齢構成とその一定人数の確保の可否などは、これらワカメ漁場利用形態の特徴である漁場の使用権と割り当て方法、生産と分配形態を持続あるいは盛衰を左右する大きな決め手になると思われる。

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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