抄録
一般的に沖縄をはじめとする離島出身者は特に強い帰還性を持っていると言われている。なぜ離島出身者はUターンによる長距離移動が目立つのか。それは島が持つ特殊地域性によるものか。離島出身者が持つ属性によるものか。しかし,離島出身者に焦点を当てた実証研究はいまだ少ない。島出身者の居住地移動の実態を把握することで,なぜ離島出身者にUターン移動が多いのかが理解でき,さらには離島地域が持つ地域の魅力を見いだすきっかけともなろう。
本発表では,長距離Uターン移動の実態を奄美大島芦検出身者を事例に検討し,居住経歴から芦検出身者のUターン移動の特性とUターンを可能とする諸条件を明らかにすることを目的とする。
研究対象地域である奄美大島は1946年に日本から行政分離され,1953年復帰し鹿児島県に編入された。芦検が位置する宇検村は奄美大島南西部に位置し,92_%_以上が山地で,隔絶性の高い地域である。気候は冬季にも温暖である。
芦検は宇検村役場がある湯湾から焼内湾西岸の4_km_の地点に位置する。2002年5月時点において人口341,157世帯である。
2002年8月,2003年5月・8月に芦検に居住しているUターン者32人を対象に,出生から現在までの居住経歴や移動理由,Uターン後の生活全般に関する聞き取り調査を行った。調査項目は,移動先や移動理由,頼った人,居住形態,職業などである。また,現在受けている年金の有無,年金の種類,金額,Uターン後の経済基盤などについても質問した。なぜ彼らは本土での生活基盤や社会関係などを放棄して芦検へのUターンを決めたのかということがこれらの質問の主旨である。
調査を行ったUターン者は女性が17,男性が15人であり,年齢構成は,40歳代が1,60歳代が12,70歳代が15,80歳代が4人である。彼らのうち20人は本土の都市部で定年退職を迎えてから芦検へUターンした。またうち28人の配偶者は芦検出身者である。夫婦がともに芦検出身であることは芦検へのUターンを決める際,大きな影響を与えたと考えられる。総移動回数は平均8回である。
退職した人を含め彼らの職業をみると,会社員が18で最も多く,タクシーの運転手が6,スーパーや商店勤務が2,公務員が1,自営業が1などである。特に,会社員の割合が高く,自営業が少ないことが特徴である。元会社員は厚生年金に加入していたため,自営業よりも退職後受給する年金の金額が多い。これは,芦検へのUターンに直接繋がると思われる。
居住経歴を分析する際に,サンプルの人々が経験したライフヒストリーを出郷期・都市生活期・Uターン期と大きく3つに分類した。出郷期とは,芦検を含む奄美大島を離れた時期を称する。都市生活期とは移動先の本土都市部で,就職・転職・結婚・出産などさまざまなライフイベントを経験しながら生活した時期を意味する。芦検出身者の場合この時期が30~40年にも及ぶことが特徴である。そして,芦検へ帰還する時期をUターン期とする。
芦検Uターン者の移動は,出郷期とUターン期の長距離移動,都市生活期における近距離移動から構成される。彼らの平均移動回数は8回である。出郷期は就職,都市生活期は転職や結婚,Uターン期には退職や島に対する思いが主な移動のきっかけになった。
芦検へのUターンを可能にしたのは
1.夫婦ともに芦検出身者
2.温暖な気候などの自然環境
3.強い地縁・血縁関係による繋がり・情報の流れ
4.活発な地域コミュニティとの結びつき
5.安定した年金収入
といった諸条件の存在である。
奄美をはじめとする南西諸島などの離島地域においてはこのような退職後の長距離移動が多数観察される。したがって,今後は長距離移動を誘発する地域的な条件を,南西諸島の諸地域の事例を蓄積することから明らかにする必要がある。