日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 310
会議情報

八重山諸島・黒島における海食崖の波浪性崩壊の分布からみたサンゴ礁の津波の波高減衰効果
*小暮 哲也松倉 公憲
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 サンゴ礁が発達した海岸では、サンゴ礁が発達していない海岸に比べ津波の波高が小さいといわれている。これは、沖で大きな波高をもって進行してくる津波が海岸の前面のサンゴ礁を遡上する過程でそれとの摩擦によって、波高が大きく減衰するためである。また、サンゴ礁の切れ目が存在する場所では、波のエネルギーがそこに集中するため波高が増幅されることも指摘されている。このように、津波の進入に対してサンゴ礁が防潮堤の役割を果たすことは認識されているものの、具体的な事例研究は少なく、その実態には不明な点が多い。
 琉球列島では過去に何度か大津波に襲われている。特に、1771年に石垣島や宮古島を中心に12000人以上が犠牲になった明和大津波は、記録に残る最大のものである。それ以前にも、明和大津波を上回る規模の津波が発生したことが知られている。こうした津波は八重山諸島の南東側の南西諸島海溝付近で発生する地震によって引き起こされると考えられている。ところで、八重山諸島・黒島では、海食崖の前面のリーフフラット上に大きさが数メートルほどの巨礫が多数点在している。これらの巨礫の形状は海食崖に見られる崩壊の痕跡と一致することが多く、巨礫は海食崖からの崩壊によるものと考えられる。海食崖の崩壊は、崖の基部に発達するノッチの拡大による重力性崩壊のほかに、波浪の直撃による波浪性崩壊の可能性が指摘されている。本研究では、黒島において波浪性崩壊によってもたらされたと考えられる巨礫の分布を調べ、サンゴ礁の発達が波浪性の崩壊とどのように関連しているかを議論する。
 黒島には比高5 m以下の海食崖が島の北部を除く海岸沿いに発達している。海食崖の前面にはリーフフラットが見られ、その沖側には水深1-3 mのラグーン、さらにはリーフクレスト、リーフエッジが発達している。波浪の卓越方向である島の南部から南東部のリーフエッジは、他の地域に比べ高い位置に発達している。また、島には北西-南東方向に断層が伸びており、断層の延長線上にあたる南東部のリーフエッジには切れ目(すなわち幅70 mほどの溝)が見られる。海岸線からリーフエッジまでの距離(いわゆるサンゴ礁の幅)は東部から南部にかけて約800 m-1 km、南西部で約250-500 mである。
 黒島にみられる崩壊は海食崖に発達する垂直な節理とノッチのリトリートポイントから延びる水平な面に規定されている。Kogure and Matsukura (submitting)はこのような崩壊に与えるノッチの深さを推定している。それを使うと、リーフフラット上に点在する巨礫について、重力性崩壊の発生を仮定した場合のノッチ深さを計算できる。また、巨礫に見られるノッチ (崩壊以前に形成されたもの)の大きさも計測し、両者の比(実測値/計算値)を求めた。この比が小さいほど、波浪性崩壊が発生した可能性が高い。
 それぞれの巨礫について、求めた比とその巨礫が存在する海岸のサンゴ礁の幅との関係をみた。その結果、重力性崩壊による巨礫の分布はサンゴ礁の幅に無関係であるが、一方の波浪性崩壊による巨礫はサンゴ礁の幅が500 m以下の小さい場所(島の西側)に多い。ただしリーフエッジの切れ目のある島の南東側の一部にも波浪性崩壊がみられる。その理由として、その場所ではサンゴ礁の幅が800 mあるものの、断層によってリーフエッジに切れ目があり、その狭くて深い溝を通った津波が波高を増幅させて海食崖に押し寄せ、大きな破壊力で周辺の海食崖を破壊させたと考えられる。以上のことから、サンゴ礁の発達が良い海岸ほど津波のエネルギーを減衰させる効果を持つことが示唆される。
文献
Kogure and Matsukura (submitting): Critical notch depths for failure of coastal limestone cliffs: Case study at Kuro-shima Island, Okinawa, Japan. Earth Surface Processes and Landforms.

著者関連情報
© 2009 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top