抄録
宮古島には,サンゴ礁段丘に変位を与える北西-南東走向で確実度I~II,活動度がB~Cの宮古島断層帯の存在が指摘されている(活断層研究会,1991;中田・今泉編,2002),活断層研究会(1991)によると,宮古島断層帯は東から新城(あらぐすく)断層系,福里(ふくざと)断層系,長沼(ながぬま)断層系,与那原(よなばる)断層系,野原(のばる)断層系,腰原(こしばる)断層系,嘉手(かで)断層系,来間(くりま)断層,佐和田(さわだ)断層,牧山(まきやま)断層から構成される.今回,宮古島断層帯の分布,最新活動時期,活動間隔および単位変位量を把握することを目的として,内陸地形地質踏査,沿岸調査,ボーリング,海域音波探査を実施した.結果を以下に報告する.
地表踏査により,宮古島には,表層流を伴う河川の分布が限定的で,断層活動の時期を特定できる地層を見出すことが極めて困難であったため,活断層の活動性評価の手法で最も有効なトレンチ調査の実施は困難であると判断した.そこで代替の指標として,沿岸に分布するビーチロックに着目し,形成時期と分布高度を明らかにするために,ビーチロックの分布する海岸において,ハンドレベルを用いた時間潮位からの簡易断面測量と包含される化石サンゴの採取を行なった..このほか,宮古島断層帯の海域延長を確認するために,南岸と西岸の浅海域においてマルチチャンネル音波探査を実施した.また,宮古島市下地洲鎌地区において群列オールコアボーリング調査を実施した.この地点は,歴史記録「球陽」に基づけば,1667年に発生した地震で1200坪の範囲が三尺(約0.9 m)陥没したといわれている.調査の結果次の知見を得た.
・新城断層系および福里断層系は,第四紀前期の保良石灰岩には変形を与えているものの,第四紀中期の友利石灰岩には変形が及んでいない.
・東岸および南岸に分布するビーチロックは,抱含される化石サンゴや貝化石の14C年代測定の結果,概ね1600cal.y.B.P.以降に形成されたことがわかった.ビーチロックの分布高度からは,既存の活断層を挟んで,鉛直方向に1mを超える顕著な変位は検出されない.
・海域の音波探査の結果から,島尻層群に変位を与える断層が複数存在し,福里・長沼断層系の南部以外は,陸域の断層崖の走向延長との位置も整合的であった.しかし,完新統の堆積物の分布を特定できていないため,最新活動に関する知見は得られなかった.
・洲鎌地区での群列ボーリングから,西側をライムストンウォールに限られた断層崖の低下側に風成レス起源の大野越粘土層が厚く堆積し,崖の基部をチャネル堆積物が充填していることが明らかになった.しかし,今のところ1667年の断層変位を強く支持する証拠は得られていない.
本調査は,文部科学省の「平成20年度科学技術調査等委託事業「活断層の追加・補完調査」のうち,財団法人地域地盤環境研究所が,産業技術総合研究所より委託を受け実施した.
引用文献
活断層研究会編(1991):『新編日本の活断層-分布図と資料』,東京大学出版会,437p
中田 高・今泉俊文編(2002):「活断層詳細デジタルマップ」.東京大学出版会,DVD-ROM 2枚・付図1葉・60p