日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 413
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茨城県北部金砂郷地域におけるそばのブランド化とフードツーリズムの可能性
*菊地 俊夫小原 規宏
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抄録
茨城県北部の常陸太田市金砂郷地域(旧金砂郷町)におけるそば栽培の発展と、それにともなう「常陸秋そば」のブランド化の諸相を検討し、その存立基盤を明らかにする。また近年では、食のブランド化を契機としたフードツーリズムが発展する傾向にあり、「常陸秋そば」によるフードツーリズムの可能性を金砂郷地域の赤土地区で検討する。
金砂郷地域は八溝山地を流れる久慈川中流域の山間地に位置し(図)、近世から葉たばこ(水府たばこ)の産地として知られてきた。そばは葉たばこの裏作として栽培されるようになったが、葉たばこ生産が衰退した現在も、そば栽培は地域農業の1つとして行われている。それは、金砂郷地域の土地条件(傾斜地、排水良好な土壌)や気候条件(気温の日較差が大)がそば栽培に適していたことや、食味に優れた良質のそばが「常陸秋そば」や「金砂郷そば」としてブランド化されたためであった。
Hall et. al. (2003) によれば、農村のフードツーリズムは農村空間の商品化のいくつかの段階を含んでおり,その重層的な構造がフードツーリズムのフレームワークとなる。それらの段階は、(1)農村景観の商品化とそれに基づくツーリズム、(2)農業生産や生産物の商品化とそれに基づくツーリズム、(3)農村におおける生活文化やスローフードの商品化とそれに基づくツーリズム、および(4)農村における美食文化とそれに基づくツーリズムである。一般に、農村においてはルーラルツーリズムが(1)の段階や(2)の段階を基盤にして発展し、農村空間の商品化にともなって、(3)の段階が加わる。さらに、農村空間の商品化が高度化・高級化することにより、(4)の段階が加わり、農村におけるフードツーリズムが成熟する。
 金砂郷地域におけるそばのブランド化は、在来種の人為的な淘汰を繰り返し、収量が多く粒がそろった「金砂郷在来種」をつくりだすことで始まった。その後、金砂郷在来種の品種改良が続けられ、1985年に茨城県奨励品種として正式に採用され、金砂郷在来種による「常陸秋そば」のブランド化が進められた。赤土地区は金砂郷在来種のもともとの栽培地であり、そこで栽培された「常陸秋そば」は金砂郷の地域ブランド「金砂郷そば」として周知されるようになった。そして、一連のそばのブランド化にともなって、そばに関連したルーラルツーリズムが発展するようになった。具体的には、そばの圃場を高齢化した農家に代わって維持し、そば栽培景観を持続させるためオーナー制度が始まり、それは都市住民の余暇活動の1つともなった。さらに、そば打ち体験やそば食の店舗もアトラクションとして加わり、フードツーリズムの基盤がつくられた。
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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