日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 510
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プラモデル製造企業の分業関係と立地
―A社静岡工場を事例として―
*山本 健太
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抄録
 本発表はプラスチックモデルキット(以下,プラモデル)製造企業の立地要因を,大手企業B社の事例から示すものである.プラモデル製造企業の立地は1950年代中葉の産業化初期にはセルロイド玩具,金属玩具の卸問屋が集まる浅草蔵前地区に多く立地していた.また,静岡市周辺にも集積がみられる.静岡市周辺の集積については,木製模型製造企業が1960年代初頭のプラモデルの市場拡大に伴い,プラモデル製造へと転身したものである.
 『工業統計表 品目編』により都道府県別出荷額の推移とシェアを見ると,1967年以降一貫して,静岡県のシェアが最も大きい.「静岡ホビーショウ2009」および「2008第47回日本模型ホビーショー」に参加した企業からプラモデル製造企業を抽出し,その本社および工場の立地をみると,東京9,埼玉6,静岡11である.静岡に立地するものが多い.そこで,静岡県内の立地をみると,静岡市内に立地するものが多い(9).
 プラモデルの生産工程は大きく4つに分けられる.企画設計,金型製造,射出成形,パッケージングである.企画設計において描かれた設計図を基に,金型が作られる.金型をセットした射出成形機に樹脂を流し込み,ランナーと呼ばれるプラモデルのパーツシートを生産する.パッケージングではランナーをビニール袋に詰め,組立説明書とともに化粧箱に詰める.
 本発表で取り上げるA社の略史は次の通りである.A社は東京都台東区蔵前の玩具製造問屋であった.A社静岡工場(以下,静岡工場)は1970年にA社のプラモデル事業を担うことを目的に,子会社として設立された.設立の経緯は,親企業と取引があった静岡の模型製造企業の倒産に際し,当該企業の工場と金型を買い取ったことによる.設立に際し,一部の従業員や外注先を引き継いだ.1985年にA社が子会社を吸収合併した.
 現在は従業員120人,多色成形機17台が稼動している.また,静岡工場内には企画,設計,金型,射出成形部門がある.工場出荷額は不明ながら,聞き取り調査によると年間100億円を超えるという.また外注先にはα社時代から取引の続いている企業が少なからずある.
 静岡工場の生産に関わる外注取引先を見ると,射出成形や印刷,パッケージに至るまで,いずれの工程においても近隣の複数の企業に外注していることがわかる.外注先の立地は半径5キロの範囲に集中している.
 成形企業には単色成形を外注する.成形企業は静岡工場から金型を,樹脂企業から原料を受け取る.また印刷企業は紙卸から製紙を仕入れ,説明書,箱を印刷する.静岡工場や各外注先企業で生産された半製品は、製函機を有するセット企業へ直接運び込まれる.その後セット企業でパッキングされ,清水港にあるB社関連の輸送企業に搬入される.このように生産工程における半製品の流通は金型の授受を除いて静岡工場を経由せずなされる.
 近年では金型生産,射出成形の技術が向上し,複雑な製品を生産できるようになった.製品の多様性,複雑性も増している.A社主力製品の8割は国内市場向けキャラクタ製品である.テレビアニメーションとのタイアップにより新製品を発売する.2001年にA社が発売した新製品は80種である.過去には154種を発売した年もある.市場の動向に合わせて短時間でプラモデルを生産することが求められるため,多品種少量生産となる.加えて,製品は化粧箱に入れられる.プラモデル製品は嵩張り,軽く,脆い半製品の組み合わせからなる.これらのことを考慮すると,静岡工場の立地は静岡市周辺の成形企業,印刷企業をはじめとした,地場の企業との日常的な分業関係によって,支えられているといえる.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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