日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 708
会議情報

日本の地方における観光の国際化
ー鹿児島県を例にー
*北田 晃司
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
近年、日本政府による「ようこそJapan」キャンペーンや日本の文化に対する国際的関心の高まりなどの影響もあって、わが国を訪問する外国人観光客は大局的には増加傾向にある。このため、日本の各都道府県、中でも経済力の弱い地方の県は観光産業、特に外国人観光客の増加による観光の国際化を、経済の活性化のための重要な手段として注目するようになっている。しかし現実には、日本国内において多くの外国人観光客が訪問するのは東京都・大阪府・京都府など、関東や関西周辺に集中しており、地方にある県を訪問する外国人観光客数は、これらの都府県に比べてまだ大きく水を開けられているのが現状である。
 本研究においては、このように地方を訪問する外国人観光客の順調な増加を妨げている諸要因について検討し、提言を行う。フィールドとしては鹿児島県を選んだ。同県は経済的にはわが国における典型的な後進地域ではあるが、桜島をはじめとする多くの観光地や温暖な気候に恵まれ、わが国の中では経済に占める観光産業の比率がかなり高い県である。また、日本の高度経済成長期には隣接する宮崎県とともに、わが国でも最も人気のあるハネムーンの目的地の一つとして多くの観光客を迎え入れた。しかし同県を訪問する外国人観光客数は、たしかにここ数十年の中で増加してきたものの、日本の中央部に位置する都府県はもちろん、「雪国」として国際的にも高い評価を受けている北海道などに比べても伸び悩んでいる。これはヨーロッパのイタリア南部やスペイン南部などが、経済的には国内における後進地域でありながら、訪問する外国人観光客数においては北部の地方を圧倒しているのとは対照的である。
 以上のような状況を考慮した上で、わが国の地方が外国人観光客により大きな魅力を与えることが可能な、より質の高い国際的な観光地として成長していくためには何が必要なのか、外国人観光客がわが国を訪問するプロセスに沿って_「来日前の情報提供」「日本国内における中央から地方へのアクセスの改善」「外国人観光客にとってより満足度の高い観光地の案内や料理の提供」の順に鹿児島県の例を挙げながら具体的に検討する。
 まず、わが国の地方は、東京や京都のような中央に位置する観光地に比べて知名度ははるかに低い。しかし西日本には、鹿児島県をはじめ長崎県・山口県など、伝統的に海外との交流に関しては東日本にある県よりも盛んであった例が多い。また鹿児島市のようにナポリ・マイアミ・パースといった有力な都市と姉妹都市関係を結んでいる都市も多く、このような過去および現在の双方における交流の伝統を十分に生かし、かつ海外に発信すれば、地方における観光の国際化により大きな刺激を与える可能性がある。
 次に、日本の地方は主にアジア諸国への直行便が発着する空港が多数ある。しかし日本を訪れる外国人観光客にとって人気のある観光地は、東京・京都など、その大半が中央に集中しており、地方だけで外国人観光客を囲い込むことは日本に対する印象を低くする恐れさえある。むしろ、外国人観光客がより安価な値段で利用できる航空パスの新設など、中央と地方との移動をより容易にすることが重要である。
 さらに、韓国・台湾・香港などのアジアNIESからの観光客については、すでに日本の主な観光地が一通り認知され、また団体観光客よりも個人観光客の割合の増加によって、これまで以上に、外国人観光客の出身国や地域ごとの嗜好により合った観光を求めるようになっている。例えば鹿児島県についても、かつては外国人観光客の大半を占めていた指宿地区を訪問する台湾人観光客が減少し、その一方で、県内でも有数の温泉地帯でハイキングも楽しめる霧島地区を訪問する韓国人観光客が増加している。このような状況下においては、受け入れ側が英語をはじめ、中国語や韓国語など、できるだけ多くの外国語による対応に習熟することはもちろん、ただ地元で有名な観光地や料理などを日本人観光客に紹介するのとほぼ同じ内容で外国語に翻訳するのではなく、様々な国や地域の地理・歴史・文化・自然環境などに対する知識を充実させ、出身国や地域の異なる外国人観光客にそれぞれ最も大きな満足を与えることができるよう、よりきめ細やかな対応を行うことが何よりも大切である。
 以上のような点に留意した上で、世界レベルでの経済の停滞や疫病の流行による外国人観光客の一時的な減少や目先の経済的利益に過敏に反応することなく地道な努力を続ければ、面積こそ狭いものの、北海道から沖縄まで多様な風土を持ち、様々な国や地域からの観光客に満足を与えられる可能性を持ったわが国の地方が、より多くの外国人観光客を引きつけ、観光の国際化を進めることは十分に可能と考えられる。
著者関連情報
© 2009 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top