日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 622
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茨城県水戸地域におけるMIS5/6境界に降下した箱根TAu11テフラ
*鈴木 毅彦植木 岳雪青木 秀則青野 道夫水戸一高2007年 SPP受講生
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抄録
はじめに  関東平野北東部には海洋酸素同位体ステージ5.5(MIS 5.5)頃に形成された海成段丘(東茨城台地)や,MIS5.1の河成段丘(上市段丘)が発達し,その下にはMIS5.5以前の低海面期に形成された埋没谷が存在する(坂本,1972).それら埋没谷を充填する堆積物中には,複数のテフラが検出されており,埋没谷の形成年代が考察されてきた(鈴木,1989;横山ほか,2004;中里ほか,2005など).その結果,坂本(1972)により見和層下部層・同中部層と区分された東茨城台地各地の埋没谷を充填する堆積物は,様々な年代に堆積されたことが示唆された.  今回,那珂川右岸の上市段丘上においてボーリングを行ない,坂本ほか(1972)による見和層下部層とされる砂質シルト層中から1枚の火山灰層を検出した.また,鈴木(1990)が報告した東茨城台地東部の涸沼北岸に露出する見和層中部層中の火山灰層を再検討した.その結果,これらは同一のテフラ層であり,かつ,箱根火山を給源とする箱根多摩上部テフラ多摩TAu-11に対比されることが明らかになった.本講演では,この対比を報告し,その意義を述べる.   上市段丘地下,見和層下部層中のガラス質火山灰層  那珂川右岸,水戸市の上市段丘の東端に位置する水戸第一高校敷地内の標高29.7m地点において深度30mのボーリングを行なった.その結果,上市段丘構成層と新第三紀層の間,標高16.7-0.3mに上から砂質シルト層(層厚7m),細砂層(0.9m),礫層(8.5m)からなる見和層下部層が確認された.砂質シルト層中に肉眼で検出できたテフラは1枚で,標高13.6mの部分に層厚1cmのガラス質火山灰層が認められた.本テフラは,軽石型火山ガラスを含み,その屈折率は1.506-1.507,主成分化学組成の特徴として,SiO2が平均で77.8wt.%であり,CaOに富み,K2Oに乏しいという特徴を持つ. 東茨城台地東部のガラス質火山灰層  東茨城台地東部,涸沼北岸宮前において層厚1mの礫層とそれを覆う層厚8mのシルト層が露出する.シルト層中の標高約10m付近には層厚1cmのガラス質火山灰層が露出し,軽石型の火山ガラスを含み,その屈折率が1.506-1.508であることが報告されている(鈴木,1990).本テフラの火山ガラスの主成分化学組成を測定したところ,SiO2が平均で77.9wt%であり,CaOに富み,K2Oに乏しいことが明らかになった.水戸一高の地下に見出されたテフラと岩相および記載岩石的特性が一致することから両者は同一テフラと判断できる. 箱根火山起源のテフラとの対比  上記の2テフラは,台地地下の埋没谷を充填するシルト層中に検出され,火山ガラスがともにCaOに富み,K2Oに乏しいということから,MIS 5.5直前に噴出した箱根火山起源のテフラに対比可能なものがないか検討した.その結果,神奈川県大磯丘陵に産出する箱根TAu11テフラとほぼ同じ記載岩石的特性を持つことが判明し,これらが対比可能であると判断した.  なお,TAu11直上のTAu12はこれまで三浦・房総半島で検出されると同時に真鶴軽石とも対比され,分布が広いことが知られている(新井ほか,1977).今回,TAu12との対比も検討したが,火山ガラスの化学組成はよく類似するものの,火山ガラスの屈折率が若干異なり,TAu11との類似性がより高い.ただし真鶴軽石とは類似するので,今後,大磯丘陵のTAu11・12と真鶴軽石との関係を再検討する必要があるように思われる. 考察  新井ほか(1977)によれば南関東ではTAu10からKlP 1の噴出期は,最終間氷期最盛期に向かう海進の最中,すなわちMIS6からMIS5.5への移行期である.このことから上市段丘地下の見和層下部層と東茨城台地東部の両シルト層は,MIS6の低海面期に形成された埋没谷をその後の海進にともなって埋積させた堆積物と判断できる.  坂本(1975)は水戸市付近に発達する埋没谷を“先那珂川凹地”と呼び,それを埋積する見和層下部層は「下末吉海進初期の急速な海面上昇にともなう旧河谷の埋積層」としている.今回のテフラの検出はこの解釈を裏づける.  一方,東茨城台地東部で検出されたTAu11を含むシルト層は坂本(1975)によれば見和層中部層である.同層は大半の場合,礫から構成されるが,坂本(1975)によれば,このシルト層は見和層中部層の主体をなす礫層堆積後にその表面の凹所を埋めて形成されたものである.しかしながら見和層中部層中には約200kaの赤城真岡テフラ(鈴木ほか,2004)が含まれている.従ってここでは,このシルト層を見和層中部層の主体から独立させ,MIS5.5に移行する海進時の堆積物と解釈した.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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