日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 714
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細密土地利用データを利用した熊谷市街地ヒートアイランドの予備的数値実験
*渡来 靖中川 清隆福岡 義隆佐々木 大
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抄録

1.はじめに
 関東平野内陸域に猛暑をもたらす要因としては、日射、フェーン、ヒートアイランド等様々考えられる。熊谷地域の高温現象を考えたとき、熊谷市街地のような小規模な都市によるヒートアイランドの影響も無視できないと思われるが、それを数値モデルで再現するには、都市をじゅうぶん解像できる詳細な計算が必要であると同時に、細密な境界値データ(土地利用など)も必要となる。前回の発表(地理学会2008秋;要旨集p.47)では、国土数値情報の土地利用メッシュをモデル用に変換したもの(以下、旧データ)を用いていたが、細かく見ると川幅が広めに表現されるなどの不適当な部分もある。そこで今回は、熊谷市周辺に関してより細密な土地利用データを作成し、それを用いた熊谷市街地ヒートアイランドの数値実験を試みた。
2.細密土地利用データの作成
 熊谷市街地を含む東西7.7 km、南北8.6 kmの領域を対象とし、細密な土地利用データを作成した(新データ)。対象領域を10 m間隔メッシュに分割し、それぞれのメッシュ内における市街地、裸地、水田、畑地、草地、低木地、森林、水面の8種の土地利用面積比を求め、データベース化した。市街地においては建物の建蔽率、容積率も収録した。土地利用判別のデータソースはゼンリンデータコム提供のデジタル住宅地図(デジタウン)と、環境省提供の第3~5回自然環境保全基礎調査/植生調査である。
 今回は、メッシュ内の新データ最大面積比の土地利用を当該メッシュ土地利用とみなしてモデル境界値とした。新データは解像度100 mに間引いてあるが、川幅が現実的であるなど、旧データに比べて改善されていることがわかる。
3.モデル計算条件
 用いたモデルは、非静力学モデルWRF(Version 2.2)である。3段階のネスティング計算を行い、3段階目(nest 3)の土地利用が旧データの場合と新データの場合の2通りの計算を行った。nest 3の水平解像度は100 m、鉛直層は37層とした。計算期間は2007年8月15日9時(日本時間)を初期値とする48時間である。初期値・境界値には、気象庁MSMデータを用いた。地表面は5層の熱拡散モデルを用いた。
4.結果
 2007年8月15日14:30の新データの結果では、市街地(3.5~5.5 km)にヒートアイランドが形成されており、地表付近では市街地に向かって風が吹き込み、市街地の中心よりやや外側(3.3 km付近や4.5 km付近)で上昇している。この上昇流の鉛直規模は800 m程度である。市街地中心部(3.8 km付近)にはひじょうに弱い下降流が見られる。旧データの結果では市街地中心部が上昇流の中心であったが、その両計算結果の違いは新旧の差からも示されている。一方、8月16日14:30にはフェーンとそれに伴う大規模な北西風が観測でもモデル結果でも見られている。その結果、局所的な土地利用の変化によるインパクトはほとんど見られないが、市街地(3.0~5.0 km)にヒートアイランドが形成されるとともに、新データによる結果では若干昇温が認められる。
5.今後の課題
 今後は、今回作成した土地利用データを生かすため、建蔽率・容積率の空間分布を考慮できるモデルをWRFへ組み込み、同様の数値実験を可能にすることが直近の課題である。

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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