日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 722
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東シベリアの湿潤化・地温上昇に対応した大気変動
*飯島 慈裕中村 哲立花 義裕
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抄録
I.はじめに
東シベリア・レナ川中流域では,2004年以降,冬季の積雪量と夏季の降水量が大きく増加するとともに,活動層内の土壌水分が増加し,さらに地温上昇に伴う活動層厚の増大(永久凍土の融解)が同時的に進行している(飯島ほか2007,2008:地理学会).降水量増加による陸面の湿潤化は,気温上昇や北極海氷の激減など近年北極圏で進行する気候変化の中で,どのような原因からもたらされたのか,その広域的な変動要因の解明は,今後の寒冷圏での気候変動・相互作用の予測上重要な研究課題といえる.
そこで本研究では,降水量ならびに再解析データ等の気候データセットを用いて,近年の東シベリアの湿潤化の原因となる北ユーラシアでの夏季・初冬季の降水量変化の空間的な広がりと,その要因となる大気場の変化について検討した.

II.研究地域と使用したデータ
本研究では,降水変動要因の解析のため NCEP2再解析データから,短周期擾乱(850hPa南北風の5日移動平均からの偏差の二乗)および、短周期成分による水蒸気フラックス(850hPa東西風、南北風、水蒸気混合比の5日移動平均からの偏差を用いて計算)とその収束を用いた.
また,シベリアでの領域的な降水量変動を把握するため,GPCP(Global Precipitation Climatology Project)月降水量グリッドデータを用いた.

III.結果
東シベリアでの夏季と初冬季の降水量増加について,NCEP2再解析データを用いて大気場を解析したところ,2005~2007年の夏季(7~9月)は,850hPa面での5日以下の短周期擾乱成分が有意な正偏差を示す領域が,シベリア中央部の北極海沿岸地域からレナ川中流域にかけて延びており,この地域の夏季降水量増加とよく対応していた(図1a).擾乱成分の正偏差の強まりは,同期間におけるシベリア側の北極海上での非常に強い低気圧性偏差と関係している.この低気圧活動の強化は,アラスカ・カナダ側の高気圧偏差と並んだ二極的な構造を示し,2005年や2007年の北極海の海氷面積の急減にも寄与しており(Inoue and Kikuchi 2007 JMSJ),北極域の大気-陸面-海洋が連鎖する変化を特徴付ける注目すべき現象といえる.この時,水蒸気フラックスはシベリア中央部,北極海沿岸,オホーツク海からレナ川中流域へ向かって収束する傾向が見られた(図は省略).一方,冬季降水(積雪)に寄与する10-11月の場では,短周期擾乱成分には有意な偏差が見られず(図2b),期間平均として低気圧性偏差が現れ,その際東シベリアへの水蒸気フラックスは南東の太平洋側からの流れが示されていた.
最近10年間では,北極海上のカナダ側とラプテフ海側との間の夏季の海面気圧傾度(CL Index)が,2005年や2007年の海氷面積の急減年を含めて急激な正の偏差への強まりを示し,二極的な大気循環の構造,すなわちシベリア(カナダ)側の低(高)気圧偏差の強まりを示している(図2).この変動に合わせて,東シベリア・レナ川中流域(北緯60-65度,東経120-150度)の7-9月の領域平均降水量も2000年以降増加の傾向を示しており,シベリア側の低気圧偏差の強まりと東シベリアの降水量増加との密接な関係が示唆される.2005~2007年は共に1979年以降で最大の正偏差,降水量増加の時期であった(図2).
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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